※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 戦場へ 4 ~
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優し過ぎる彼女の好意に甘えて、わたし達はまーから頼まれたお使いを果たすべく、真っ暗な中でも煌々と黄、白、赤の三色で目立つ看板のお店へと車を走らせた。
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「どっちにします?」
左折して駐車場に車を進入させつつ、雀ちゃんが問う。
彼女が指差す先は、ドライブスルー。
多分、ドライブスルーで注文するか、車を停めて店内へ入って注文するかを問うているのだ。
「ちょっと注文の数多いし、店内行こうか」
24時間営業の店舗らしいが、駐車場に車が一台停めてあるだけだ。
お客さんが少ないおかげで、他のお客さんに迷惑をかけることはないだろうが、この遅い時間に来て大量の注文をするので、店員さんには少し、迷惑を掛けてしまうだろう。
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わたしの言葉に頷いて駐車場の一角へ車をバックで停車させる彼女がエンジンを切ったのを見計らって、お礼を言う。
え? なにが? と言いたげにきょとんとする雀ちゃんに小さく笑って、手を伸ばす。
若いからなのか、ツルツルのほっぺを撫でて、
「ここに連れてきてくれたこと」
と告げれば、そんな事かと胸を撫で下ろされた。
「何の事かと思っちゃいましたよ」
お礼を言われるまでもない、と思っているんだろうけれど、わたしからしてみれば、随分と振り回してしまっていて、申し訳なさ過ぎる思いだ。
だって彼女と会社の面子はまー以外全く面識もないのに、その人達の差し入れを買うために車を出してもらっているのだから。
知らない人の為の買い物程面倒なものは無いと思うんだけど、この子はさっさと車から降りて、わたしが来るのを待っている。
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財布と携帯電話だけを持って車を降りると、彼女は車に施錠した。
「雀ちゃんは何食べたい?」
「え、や、でも部外者ですし」
「お使い手伝ってくれてるんだから部外者じゃないよ。遠慮しなくていいから」
何がいい? と再度尋ねると、彼女は帽子からはみ出している髪をわし、と無造作にかいて、自分のお腹に手をやる。
「といっても、晩御飯食べましたし、そこまでお腹減ってないんですよね」
「確かにわたしもそう。だからキャラメルラテだけにしようと思ってるんだけど。雀ちゃんも飲み物にする?」
「あ、じゃあホットコーヒーをお願いしてもいいですか?」
「もちろん。二つか三つ頼んであげようか?」
「や、それは十分過ぎます」
とお店の扉を開けながら雀ちゃんが苦笑した。
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店内へ入れば、こんな時間でも元気のいい声が「いらっしゃいませ」とわたし達を迎えてくれた。
カウンターへと歩み寄り、ちょっと注文多くなるんですけど、と前置きしてから、まーに送り付けられたオーダーを読み上げる。最後にわたしのキャラメルラテと雀ちゃんのコーヒーを付け加えて、終了。
店員さんにちょっと時間がかかると言われても、全く構わないのですみませんがお願いしますと申し訳なさを前面に出しておねがいした。
こんな時間に来て大量注文する迷惑なお客だということは、多少なりとも自覚はしているから。
支払いを済ませて領収書を発行してもらう。番号札をもって席につくと、雀ちゃんは律儀にもわたしに頭をさげた。
「ごちそうさまです」
「ほんと、全然気にしないで」
まーも言っていた通り、会社の経費で落とすみたいだし。
むしろ、わざわざここまで車を走らせてくれた雀ちゃんに、コーヒー一杯という報酬は少なすぎる気がした。
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「これから、徹夜ですか?」
ぱたぱたとキッチンの方で動き回っている店員さんを眺めながら、雀ちゃんがぽつんと言った。
その声には心配が滲み出ていて、家で「必要な仕事ならするべきだ」みたいに言った彼女がその裏では、わたしの体を案じてくれているのだと改めて教えられた。
「んー……一応、チームの最強メンバー5人でやるから、完徹ではないと思うんだけどね」
多田くんがデータを消したとしか聞いていなくて、どの程度のデータを消したのか、出社してみないと正直、徹夜なのか4、5時間で終わるのかは分からない。
だけど、わたしにこうしてお使いを頼むところをみると、少しの余裕はありそうだと踏んでいる。
先程の電話のときだって、本当に仕事が終わるかどうか分からないなら、まーはあそこまでふざけたりしない。
「だから、徹夜とまではいかない、かな? 仕事終わって帰る時間がないくらいってわたしは予想してる」
わたしの話を静かに聞いていた雀ちゃんは、複雑な表情で、こちらを見つめた。
「明日は早く帰ってこれそうですか?」
「急に接待とかが入らなかったら早いと思うんだけど……プレゼンする取引先のお偉いさん方に誘われたら、断れないし……ねぇ……?」
正直分からないと、素直に答えると、雀ちゃんは複雑な顔を曇らせながら溜め息を吐いた。
「いちお……晩御飯作って愛羽さんの家の冷蔵庫に入れとくんで、食べれたら食べてくださいね。きちんと食べないとすぐ、体、壊しちゃいますから」
心配がたっぷり詰まった愛情を向けられて、うん、と頷く。
仕方がない事とはいえ、こんなにも心配してくれて、世話を焼いてくれる彼女が、会社へ送り出してくれる。
それはきっと精神的苦痛を伴う事なのだと深く心に刻んで、彼女に感謝しなければいけない。
怒ったり、拗ねたり、わたしへの心配を放棄する方が、ずっと楽だし手っ取り早い。
でもそうせずに、出来るサポートを尽くしてくれる雀ちゃん。
愛されているなと幸せを感じると同時に、こみ上げる申し訳なさ。
今日は一段と、申し訳なさが大きくて、なんとなくお腹が痛くなってくる程だ。胃が痛いというやつだろうか、とぼんやり考えていると、突然、雀ちゃんが立ち上がった。
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