隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ 78話


※ 隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 聞きたかった言葉を与えられたけれど、それは私に動揺をも与えた。

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 ~ 湯にのぼせて 78 ~

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 立ったままでキスをすると、愛羽さんとの身長差を改めて感じる。
 数字で言うと、17センチ差の私達の身長。愛羽さんがヒールを履いても多少、差が縮まるくらいで、追い越されることのないこの数字。
 以前なにかの折に、彼女の身長を尋ねた時に密かに安堵の息をついたのを脳裏に蘇らせながら、私は彼女の柔らかな唇を堪能していた。

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 首に回された彼女の腕から感じる重みが心地良く私を引き寄せる。
 抗うことなく身を寄り添わせて、上向いた愛羽さんの唇に自分のそれを重ねた。相手の唇をゆっくりと圧すように弾力を味わって、一度離れる。

 すると、離れた唇を不審に思ってか、愛羽さんが閉じていた瞼を押し上げた。現れた瞳は先程の名残りか、平常時よりも潤んでいる。
 水を湛えた瞳というのはどうしてこうも、可愛く、それでいて大人の色気というものも纏うのだろう。相反するふたつの性質を包んで、その瞳は私を見上げてくる。

 ――そそられない筈がない。

 いつまでもその可愛らしくも色香漂う瞳を見つめていたいけれど、艶のある唇の柔らかさが恋しくなる。
 胸に湧く欲求のまま、愛羽さんの瞳を見つめながら、再び顔を近付けていく。
 唇同士が触れる距離に近付けば近付く程、閉じられていく瞼。

 名残り惜しいけれど、唇にも触れたい。
 そんなジレンマを抱えて、私は愛羽さんに口付けた。

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 二度目の口付けは触れるだけでなく、その柔らかさを味わうよう、まずは彼女の下唇をゆっくり啄む。
 僅かに吸い付けば小さく音が鳴り、愛羽さんの睫毛が震える。そこでようやく、自分が薄目を開けて彼女の様子を窺っていたのだと気が付いて、内心苦笑しながら瞼を閉じた。

 視覚を失うと、妙に、他の感覚が研ぎ澄まされる気がする。

 私が愛羽さんの上唇へターゲットを移すと、彼女が微かに吐息で啼いた。
 普段ならば聞き逃してしまいそうなくらいのそれだったけれど、確かに聞き取った私の聴覚はやはり鋭い。
 啄んだ唇を伸ばした舌でぺろりと舐めて、顔を離した。

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 どうやら私は、愛羽さんの瞳を覗き込むのが好きみたいだ。
 彼女の瞼が開いていくところから見てみたくて、先に視界を開けておく自分に少し苦笑を隠せない。でもそんな顔を見られたくなくて、彼女が目を開けるよりも先に、苦笑を収めておいた。

 だって、キスした相手が苦笑なんてしていたら、愛羽さんは何事かと思ってしまう。
 そんな心配事を増やしてこの旅行最後の夜を過ごすなんてまっぴらだ。

「……だめ」

 水の膜を張った瞳が私を見上げて、彼女は否定の言葉を告げた。
 突然投げられたその言葉の意味を理解しかねて、目を丸くしていたら、首にまわされていた腕に、くい、と引き寄せられる。

 されるがまま、彼女に顔を寄せた私に、間近で愛羽さんは言った。

「…もっとキスして…」

 吐息混じりの声に、心がざわついた。

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 さざ波のように私の全身をなにかが駆け抜けるように撫でていく。
 それが何と言い表していい気持ちなのか分からない。
 でも一つだけはっきりと理解できているのは、心臓が異様な程に熱いこと。

 ドック、ドック、と遅いけれど大きく力強い鼓動。熱い心臓が収縮を繰り返し、熱い血液を全身に送り出す。
 いつもとは違う何かに戸惑っていると、固まった私を至近距離で見つめた愛羽さんが、顔をほころばせた。

「顔、まっか」

 私の左右の頬を見比べるようきょろきょろと動く潤んだ瞳が、動きをとめて、真っ直ぐに私の瞳を見上げた。

「さっきまでの威勢は?」

 揶揄うように愛羽さんの指が私の項に爪を立てる。三本指を突き立て、横へ薙ぐように引っ掻く。

 私は、戸惑った。
 急に、主導権が彼女に移ってしまった。まったく、一体全体、どうしたことか。
 ついさっきまで、愛羽さんは真っ赤になって、言いたくもない恥ずかしいセリフを私に半強制的に言わされていたのに。

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 数分前の事など忘れ去ったように、ふふんと笑う愛羽さん。

「大人の色気の勝利かしら?」

 悪戯っぽく言う彼女だが、実際、そうなのだ。悔しいことに。

 行為の際、私が上になっていても、彼女が本気になればいつでもひっくり返せると思う。
 蕩けて、甘く、色気たっぷりの声で愛羽さんが何か言うだけで、私は全身に痺れが走るような感覚に襲われる。
 だから当然、隙が出来て、こんなふうに付け込まれて、立場を逆転されてしまう。

「貴女が言わせたがったこと、聞きたい?」

 また、大きく、心臓が血を送り出す。
 やけにその音は大きく、ゆっくりだ。まるで時の流れが遅くなったみたいに。

 愛羽さんの瞳から視線を動かせないのは、冗談でも何でもなく、魅了されているからだと思う。

 ちらとも視線を外せないままの私に、愛羽さんは、首輪を掛ける。
 私が、貴女から離れられないような、頑丈で、強固で、好意のこもった目に見えない首輪。

「…貴女とセックスしたいの……」

 その言葉を聞いた途端、身体の芯が痺れた。
 間違いなく、今、私の目が大きく揺れた。顔も、首も、耳も、さらに言えば胸あたりの肌まで、真っ赤だろう。そのくらいに血が沸騰している。

 デジャヴのように、自ら軽く背伸びをして、私に口付ける直前。
 目に見えない首輪のリードをグイと強く引くような、そんな言葉を、彼女は容赦なく私に浴びせる。

「……早く抱いて」

 くらりと眩暈を起こす程の色気が込められた声は、麻薬のように、私の脳を犯していった。

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