隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ 69話


※ 隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 可愛い。

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 ~ 湯にのぼせて 69 ~

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 わたしのワガママの塊を投げつけられて、目を丸くしていた雀ちゃんは、3秒ほどそのまま固まって、やっと表情筋を動かした。

「ものすごく可愛い事言いますよね、愛羽さんって」

 ふわりと笑って、わたしが座る座椅子の傍へと寄ってきて、ストンと腰を下ろす。
 向き合うように座った彼女がまた優しく笑うから、目を合わせていられなくて、斜め下に落とした。

「おいで」

 優しい声。
 それこそ、生まれたての子猫や子犬に言うみたいに、甘い声でわたしを誘う。

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 大人しく彼女の腕の中におさまったわたしの背中を撫でる雀ちゃんの手は、やっぱり優しい。
 わたしを宥めようとしてくれているのかもしれない。

「愛羽さんも、この旅行で私の事スゴク好きになったんじゃないですか?」

 わたしの説教を真似るようにして言う雀ちゃん。
 でも、確かに、その通りだなって思うもんだから、言い返せない。
 口をヘの字にすると、笑われる。

「私みたいに即答はしてくれないけど、認めるって感じですか」

 こういう、素直になれない所がわたしの可愛くない所なんだろうなぁ。
 自分にがっかりしてしまう。

 もっと若くて、素直な子なら、旅行で好きになったかと聞かれて、すぐに「大好き」になったと言えるのだろう。それこそ、この間の雀ちゃんみたいに。

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 自分の可愛げのなさに、むむむと唸っていると、雀ちゃんはまた優しく笑う。
 そしてまた抱き締めたわたしの背をゆっくりと撫でながら言うのだ。
 優しい声で。

「そんな愛羽さんも、私は可愛いと思いますし、大好きですよ」

 きゅうぅ、とその言葉の優しさと甘さに胸が締め付けられて、心が蕩ける。

「好き」
「うん」
「大好きよ、雀ちゃん」
「私も好きですよ、愛羽さん」

 彼女の背に腕を回して、抱き返す。
 この腕に抱かれるだけで、こんなにも素直になれる。

 雀ちゃんの素直さが伝染したかのようだった。

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 わたしの背を抱き締めていた雀ちゃんの手が離れて、体を離される。倣うようにわたしも彼女に凭れかかっていた体を起こして、二人の間に空間を作る。

 ゆっくりと下から掬いあげるように雀ちゃんの指がわたしの顎にかかる。
 上向かされる動きに抵抗せず彼女を見上げると、雀ちゃんはわたしをまっすぐ見つめてくる。

「ね……名前、呼んで?」
「愛羽さん……?」

 わたしは緩く首を振った。

「呼び捨てで」

 囁くようにお願いすると、雀ちゃんはちょっと目を見開いた。けれどすぐにまた、優しく微笑んで、顎にかけていた指を滑らせるようにしてわたしの頬を撫でた。

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「愛羽」
「…ん…」

 ――ぁ…まずい……照れる……久々に呼び捨てされた。

 胸中でキャーキャーと騒いでいると、雀ちゃんの瞳が緩く弧を描く。

「ちょっと照れてますか?」
「……だいぶ、照れてる」

 表情はかえないように頑張ったんだけど、ここまで距離が近いとバレてしまうものなのか、見抜かれた。
 雀ちゃんの首元に顔をうずめて隠すと、頭を撫でられた。

「たまには、呼び捨てもいいですね」

 可愛い愛羽さんを見られました、と嬉しそうな声が耳を擽った。

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「今、キスし始めたらまた始めちゃいそうですけど、どうします?」

 少し悪戯っぽくおどけて言うのは、本音を隠す蓑代わりだろう。
 ついさっき終えたばかりの行為をちらつかせる雀ちゃんは、わたしの髪を手で梳く。

「キスだけ、する」
「キスだけですか?」
「だけ」

 小さく笑い合いながら、そう言って彼女へ唇を近付ける。
 だって、もう夕食がいつ来てもおかしくない時間ではあるし、そんな性欲解消ヤるだけ、みたいなえっちでこの旅行を締めくくりたくない。

 多分それは雀ちゃんも同じなんだろう。

 すぐに重なった唇から、わたしを欲する気配は感じ取れるものの、無理に行為を始めようとはしていない。

 それは、裏を返せば食事のあとはたっぷり…というコトなんだろうけど。

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 抱き締められながらされるキスは甘くて、優しい。
 貪るようなキスも時には刺激的で良いけれど、わたしはじゃれ合うような優しいキスのほうが好み。

 雀ちゃんの唇を何度も食み、軽く吸う。
 舌を絡める、というよりは、子猫のように軽く舐め合うキス。

 相手の唇の奥に舌は入れるけれど、目当てのそれを舐めれば、気が済んだようにそこから出ていく。
 そんな興奮のカケラもないような行為だけど、緩慢に繰り返しているうちに、いつの間にか、互いが欲しくて、堪らなくなるのだ。

 それはもう、身体が疼いて、今すぐにでも、欲しくなってしまう程に。

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