※ 隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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English
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~ 湯にのぼせて 67 ~
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ロッカーの前で話をしている仲居さんと、外国人さんの元へと近付く。
すると先にわたしの接近に気が付いたのは、仲居さんのほうだった。外国人さんからわたしへと視線を移して、会釈をしてくれた。どうやら、わたしの顔に見覚えはあるみたい。
仲居さんに会釈を返して、仲居さんの視線の先を追うようにわたしを振り返った外国人さん。
雀ちゃんが言うように、黒髪、黒瞳で顔立ちも日本人ぽい。一見、日本人にしか見えない。その口から英語が出てくるなんて、誰も想像できないだろう。
そんな彼女に、わたしは咳払いをしてから英語で話しかけた。
『どうかしましたか? わたしでよければ、お話をうかがいますよ』
仲居さんが目を見開いて驚く様子を見せるけれど、今時、英語が喋れる人は結構居ると思うのだけれど。
それでも、外国人さんもわたしが英語で話しかけた事に驚いたのか、両手を顔の横まで上げた。
あぁ、このオーバーリアクションにも見える仕草。出で立ちこそ日本人だけど、彼女はれっきとした外国人さんだと妙な確信を持つ。
『あぁ助かったわ。英語が喋れる人にやっと出会えた。色々と教えてほしいの』
若干、うんざりした表情をする彼女に、同調するよう苦笑を零して、まずは何に困っているのかと尋ねる。
『そう、このロッカーだけど、鍵を閉めるの?』
『あぁ、これは――』
自分の荷物をいれておくロッカーの使い方が分からなかったみたいだ。
ここの旅館のロッカーはコインロッカーではなくて無料で使えるタイプだから、荷物を入れて鍵を閉めて、その鍵は手首にひっかけてお風呂に入るのだ。そしてお風呂から上がって出て行くときにはその鍵を鍵穴にさしたままで出て行っていいのだ、と説明する。
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わたしが彼女に説明をしていると、いつの間にそこへ近付いて行ったのか、雀ちゃんが仲居さんと何か話をしている。
流石に、英語と日本語、二人の声を同時に聞き取るだなんて難しいから、わたしは雀ちゃんから視線を逸らして、外国人さんの言葉に集中した。
『ここのバスルームを使う時のルールはあるのかしら?』
この大浴場をバスルームと言ってしまえる辺りは笑みを零しそうになる。
ルールというルールが存在しているかと言われると、感覚で大浴場を利用しているわたし達には”ルールなんてない”と言えてしまいそうだ。けれど、日本で育っていない人にとってはなかなか難しいのかもしれない。
シャンプー、コンディショナー、ボディソープ、石鹸は備え付けてあるからそれを使っていいのと、タオル1枚はもって入って、それで体を洗うこと。あとは浴槽内にそのタオルは入れてはいけないこと。それと、浴槽につかる前は自分の体にかけ湯をすること。
うーん、そのくらいかしら?
改めてルールを教えるとなると、なかなか難しいものだった。
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お風呂からあがったら、あそこの鏡の前に置いてあるドライヤーを使って髪を乾かすこと。
あとは、のぼせないように気をつけて、と締めくくると、彼女は大きく頷いてからわたしに手を伸ばしてきた。
『ありがとう。とても助かったわ。あなたとここで出会えた事は神の導きね!』
ぎゅうと力強く抱きしめられ、わたしも彼女の背に腕を回して、アメリカンな仕草を堪能する。と、ふわりと香ったコーヒーの匂い。
『お役に立てたならよかったわ。あとは何か聞きたいことはある?』
『いいえ、大丈夫よ。もし分からなかったら人に聞くけれど、ここはまだ国を閉じているみたいに言葉が通じないからあなたをまた探さなくちゃいけなくなるかもね』
く、国を閉じるって鎖国のことね。ブラックジョークすぎるわよ。
苦笑交じりに笑ってみせると、さっそく服を脱ぎ始めた彼女の横をすり抜けて、わたしは仲居さんに近付いた。
「もう大丈夫ですよ。大体の使い方は伝えましたから」
「申し訳ございません。お客様にお手数をおかけしてしまうだなんて」
「いえいえ、こればっかりは仕方ないですから」
首を横にふると、仲居さんに深々と頭をさげられた。
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女湯の脱衣場から暖簾をくぐって廊下へと出る。
そこでもう一度、仲居さんがわたしに頭をさげた。
「そんな大したことした訳じゃありませんから」
何度もお礼を言われるのも、頭を深々と下げられるのも慣れていない。
手を振り、首を振ると、やっと顔をあげた仲居さんが柔らかい表情でわたしを見つめた。
「いいえ。あんなに流暢な英語を会得するには相当な時間を要し、努力をされたはずです。そんな苦労の上で手にされた英語力に私は助けて頂きました。頭を二度三度下げた程度では足りないくらいです」
丁寧な口調でそう褒められると、照れるしかない。
頬を指でかいていると、仲居さんは微笑んだ。
「ですけれど、ここで延々と感謝し続けても金本様を困らせてしまうだけですし、私も仕事中の身。このあたりで失礼させていただきますね」
では、今夜の御夕食の時に、また。
と言い置いて、仲居さんは優雅に廊下を去って行った。
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「珍しく素直に愛羽さんが照れてますね」
「うーん、ああいうお母さんくらいの年齢の女性にはちょっと弱いかも」
仲居さんの背中を見送りながら、素直に認めた。
曲がり角に仲居さんの姿が消えて、数秒後。
「あぁここに居たんだお母さん」
なんて声が廊下の奥から聞こえてきたけれど、特に気にも留めずに、わたしは雀ちゃんに預けていた荷物を受け取りながらお礼を言った。
「部屋、帰ろっか」
「はい」
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