※ 隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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食事。
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~ 湯にのぼせて 42 ~
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カプチーノっていうと、甘くてふわふわ~、な、イメージだったのに、そのイメージはガラガラと音を立てて崩れていった。
ミルクの泡の中にマドラーを差し込み、できるだけその泡を壊さないようにかき回して、シュガーを溶かす。
「そうかぁ。これって、エスプレッソだったんだ…」
「そんな残念そうに言わなくても」
苦笑した雀ちゃんに、なんだか子供でも見るような目を向けられる。
「まぁ、お店によってはカプチーノはコンビニのイメージをそのまま持って来て、甘くて泡があるものを出す所もありますし、愛羽さんが間違ってた訳じゃないですから」
なんて、よく解らないフォローをされた。
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「……雀ちゃんのは、苦くないやつ?」
彼女の手元を見れば、もうカップの半分くらいまで水位が下がっている。美味しくてゴクゴク飲んでしまったみたいだ。
首を傾げるわたしに、すまなそうな顔を向けて、雀ちゃんは首を横に振った。
「これはエスプレッソに、ミルクを注いだものだから、苦さはありますよ。でも、まぁ……多分、愛羽さんのそれよりは飲みやすいかもしれないですね」
それは泡立てたミルクを上に被せてあるだけだから、と言いつつ雀ちゃんはわたしの前に自分のカップを寄せてくれた。
飲んでいいよ、という事みたいで、わたしはお礼を言って彼女のカップを持ち上げた。
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「……にがい……」
舌に広がるその苦みは、昨日のアイスコーヒーとは違ってなんだか、そう、濃い。
これがエスプレッソだ! と言わんばかりのその苦みを混ぜられたミルクが薄めてはいるものの、やっぱり子供舌のわたしは眉を顰めてしまう。
小さく吹き出した雀ちゃんは、わたしの手からカフェラテの入ったカップを取り上げて、カプチーノを飲むように促した。
「もう一本シュガー要りますか?」
なんて言ってくれるけれど、その声が笑いで微かに震えている。
軽くジト目を隣に向けると、彼女は咳払いで笑いを誤魔化した。
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そうこうしていると、ウェイトレスさんがわたしにサンドイッチを。マスターが雀ちゃんにエビピラフを持って来てくれた。
「美味しそう」
運ばれた食事を見て思わずわたしが言うと、マスターはにやと笑った。
「俺の飯は絶対美味いぞ?」
言い置いて、彼は調理器具の片付けに向かっていった。
ほんと、気さくな人だけれど、お客さん皆にこんな対応しているのかしら。
「食べよっか」
「うん」
彼女の前にあるピラフも湯気をたてて、こっちまでエビのいい匂いが漂ってくる。
雀ちゃんが両手を合わせて小さく「いただきます」と言ってスプーンをとったのに倣い、わたしも合掌して小声でいった。
「いただきます」
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お皿に乗せられているサンドイッチは、タマゴサンドとハムチーズサンドと、もうひとつは…多分野菜サンド、かな?
どれから食べようか迷う。
本当は野菜から食べたいけれど、その後にタマゴ、ハムチーズと続けて濃いものを食べるよりは、タマゴかハムチーズのどちらかを食べたあと、野菜、そして残りの片方、と食べたい。
まずは、タマゴサンドを手にとった。
このサンドイッチ3種類の乗ったお皿を見て、「お?」と思ったのは、パンを具材に合わせて焼いてあること。
このタマゴサンドと、野菜サンドは焼かれていない真っ白ふわふわパンに挟まれている。
でも、ハムチーズサンドのパンは焼いてあって、その熱で中のチーズがトロリと僅かに溶けていた。
こういう細かい差をつけている点はとても好感度をもてる。それだけ、仕事にこだわりがあるという事だから。
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そんな考え事をしながら一口食べたタマゴサンド。
――おいしい。え、なに、凄く美味しいんだけど……っ。
思わず、もう一口。二口。
いやいやそんながっついて食べるだなんてちょっと行儀が悪い。
隣の雀ちゃんにも呆れられてしまったら大変。
なんて思いながら、口の中のものを飲み下してから、チラと隣を見ると、すでに三分の一は完食している。
わたしの視線に気が付いたのか、スプーンを置いて、一口、お水を飲んで気を落ち着けたら、雀ちゃんはこちらに真顔を向けた。
「めっちゃ美味いんですこれ」
「これもめっちゃ美味いですよ」
彼女の真顔が面白くて、雀ちゃんの口調を真似して返すと、二人で笑い合った。
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いやでもほんと、美味しい。
タマゴサンドなんか、それこそコンビニで買えちゃうくらい手軽に食べられる物でありながら、こういうちゃんとしたお店でも必ずある定番メニュー。
わたしも出張とかで色んな場所に行って、いろんなタマゴサンドを食べた事があるけれど、これはランキング上位に食い込む程の美味しさ。
すぐにタマゴサンドを食べ終えてしまって、名残惜しくも野菜サンドを手に取った。
――やばい、これも美味しい……!
ふわふわのパンの間にパリッとした触感の葉物野菜。その隙間を縫うように散りばめられたナッツ系のカリカリした触感と旨味。
美味しい……!
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途中、カプチーノで喉を潤しながら食べ進め、最後のハムチーズサンドに手を伸ばしながら、わたしは雀ちゃんに言った。
「ねぇ。二人で居るのに喋らないで、こんな一心不乱に食べてるのって、初めてじゃない?」
「え、あ、そうですね。でもすごく美味しくて止まらないです」
「うん。わかる」
短い会話だったけれど、今のわたし達にはそれだけで十分で、わたしは最後のサンドイッチを一口齧った。
焼かれたパンはそれまでのものとは違って、サクサクッと軽やかな音を立てる。舌に触れる温度も温かく、中にあったチーズがとろりと溶けてくる。その後を追うようにハムの塩気がまろやかなチーズを引き締めて、しつこさがない。
だから余計、もう一口、もう一口、とすぐに食べ進めてしまいたくなるのだ。
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「……美味しかった……」
二人同時にそう言って、お互いの声に目を合わせて微笑む。
こんなに急いで食べたらお腹がびっくりしちゃうかも、なんて思いながら水を飲んでいると、雀ちゃんがカフェオレのカップをゆっくりと飲み干した。
コトリと置かれたカップと、彼女の表情を見比べて、わたしは小さく笑う。
「食後のコーヒー、飲みたいんでしょ?」
ぴた、と動きを止める彼女が体現したのは、図星。
ほんと、分かり易くて可愛い。
「もうちょっとゆっくりしていきましょう? 何か頼んで?」
わたしの言葉に、ぱっと顔を明るくする雀ちゃんはホント、見ていて飽きない。
――可愛いすぎるでしょ、ほんと。
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