※ 隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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女子会という名の惚気話。
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~ 湯にのぼせて 43 ~
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しばらくメニューとにらめっこをしていた雀ちゃんがオーダーしたのは、昨日と同じ、オリジナルブレンドだった。
どうやらお気に入りらしい。
やっぱり、キラキラした目でマスターの動きを眺める雀ちゃんは、小さな子が何度も同じ遊びをしたがるそれにも似ていて、微笑ましい。
「お待たせしました。オリジナルブレンドです」
マスターがそう言って雀ちゃんの前にコーヒーを置くと、食事をもってきてくれた時とは違って、彼はわたし達に話しかけてきた。
どうやら、食事をするからと気を遣ってくれていたみたいだった。
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「美味かっただろう? 俺の作る飯は」
「はい!」
素直に頷いた雀ちゃんは、オリジナルブレンドのカップを持ち上げ、香りを楽しんでいる。
マスターがこちらにも目を向け感想を催促するので、今回ばかりはわたしも素直になることにした。
「ええ、とても。あんなに美味しいサンドイッチにはそうそう出会えません」
賛辞を述べれば、彼は意外そうに眉をあげて、初めてわたしに柔らかく笑った。
いつものニヤリとした笑顔でないその顔には、年相応の目尻の皺が優しく映える。
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「ま、作ったのは俺だが、考えたのは嫁さんでな」
腕を組み、秘密を教えてくれたマスターの顔をまじまじと見た。
「なんだよ。俺が嫁さんもらってちゃ変か?」
「素敵な方ですからそこは疑問には思いませんけれど、奥様が考案されたメニューの方が気になりました」
大概、ここまでこだわりのある喫茶店をしているマスターは、自分の仕事は自分で全て決める人が多い。
それは喫茶店のマスターに限らず、世の男性ほとんどが、自分がこだわりを持って築いてきた仕事場には、プライベートの象徴であり、家族ではあるけれど、他人の奥様が関わることを良しとしない。
「お嬢ちゃんが言う”気になる”ってのは”驚いた”とは違うみてぇだな」
喉の奥でクツクツと笑ったマスターは、わたし達の位置からは見えなかったけれど、カウンターの中にある椅子を引っ張ってきて、わたし達の前に「よっこいせ」と座った。
「女子会しようぜ」
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彼が言いたかったのは、まぁつまり、「お話しよう」という事だと思うんだけれど……なんか、言葉のチョイスを間違っていないだろうか。
ダンディという言葉が似あいそうな彼の口からそんなワードが飛び出た事に、ブレンドをチビチビ飲んでいた雀ちゃんが吹き出しそうになって噎せた。
咳き込む背中をさすってあげながら、向かいの彼に呆れた視線を送った。
「お仕事中に、いいんですか?」
「見ての通り暇だからよ」
確かに彼の言う通り、この喫茶店はゆったりと時間が流れている。
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咳の収まった雀ちゃんの背から手をどけると、涙目の彼女。
「大丈夫か、嬢ちゃん」
「はい、なんとか。すみません」
けら、とマスターは笑って、雀ちゃんからわたしに目を向けた。
「なんで気になるんだ?」
ちょっと意地悪そうに目を細める彼は、多分、わたしの答えが予想出来ている。
そんなひとに隠しても意味はないので、先程思ったことを素直に言うと、彼は顎を撫でるように触って、「ほー」と感心したように言った。
「お嬢ちゃん、何者だ? 若ぇのによく人見てんなぁ」
「ただのOLです」
にっこり愛想笑いを浮かべてみると、胡散臭そうに顔を顰め、雀ちゃんに「本当か?」だなんて問い直すマスター。
頷く雀ちゃんに、彼は納得しかねるような難しい顔をした。
「どっかの経営者かと思ったんだがなぁ」
「買い被り過ぎですよ」
わたしがそんな器なら、まーはどこかの会社の社長さんをしていなきゃいけない。
ゆるゆると首を横に振って見せた。
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「ま、お嬢ちゃんの言う通りでな、俺ぁバツ1つ持ってるくらい頭が固かったんだよ。前の嫁さんにゃ絶対口挟ませなかったからなぁ」
離婚歴があるとは思わなかった。
ん? ということは、もう、再婚済みということ?
「察しが良いな。あっこに居るやつの母親が俺の嫁だ」
あっこ、と指差したのは、ウェイトレスさん。
成程、道理で、仲が良さそうな訳だ。
「その嫁さんがまたなぁ、賢いんだよ。仕事であれしたら、これしたらって言われて最初は突っ撥ねてた俺も、その指摘が最もなことばっかりで。大喧嘩した後、試しに1ヶ月あいつの言う通りにしてみたら、随分変わったよ」
目の奥が柔らかくなっている彼は自覚しているんだろうか。
そんな顔をしたら、「奥さんが大好きです」ってわたし達に公言しているようなものなのに。
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突然、喫茶店に響いたのは電話の着信音。
どうやら、お店の電話が鳴ったらしくて、ウェイトレスさんが受話器を手にとった。
音につられてわたし達3人はそちらを向いたけれど、ずっと見ていても仕方ない。
正面の彼に視線を戻すと、それまで聞き役だった雀ちゃんが口を開いた。
「どうして大喧嘩の後に奥さんの言う通りにしようと思ったんですか?」
マスターの眉が、ぴく、と動いた。
あ、確かに。わたしもそれは知りたい。
多分その喧嘩の中で、お互い思っていることを洗いざらい喋って、理解し合ったんだろうなぁ。
「その糞みてぇな経営止めないとあんたがボケたら保険金かけて殺すって言われたんだ……」
「えええっ!? マジですか!?」
「大マジだ……」
真面目腐った顔で、悲壮感を漂わせているマスターの言葉に食いつく雀ちゃんだけど……多分それ、嘘よねぇ……。
わたしが本当の所を聞こうとしても多分、のらりくらりと逃げられるだろう。
小さく笑っていると、ウェイトレスさんが受話器を片手にやってきた。
「ごめんなさい、お話し中に。マスター、お母さんから」
片眉をぐいとあげて不審そうな顔で受話器を受け取るマスター。
噂をすればなんとやら、だ。
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