隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ 41話


※ 隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 昨日より、苦い。

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 ~ 湯にのぼせて 41 ~

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 わたしの言葉になんだかとても照れた様子を見せるウェイトレスさんを微笑ましく思っていると、カウンターの内側から揶揄う響きの声が飛んでくる。

「俺にもそんな笑顔を見せて欲しいもんだ、綺麗なお嬢ちゃん」

 どうしてこの強面のオジサマは、初対面の時からわたしを揶揄いたがるのだろう。
 彼へと顔を向けていると、ウェイトレスさんが仕返しとばかりに暴露を始めた。

「マスターだって昨日、お二人のこといいなぁとか言ってたじゃないですか」
「そりゃお前、二日連続で来てくれるなんて上客じゃねぇか」

 軽く躱される暴露。
 うーん、こんな若いウェイトレスさんの話術では、彼には敵わないだろう。

 悔しそうにイーッと顔を歪めて奥へと引っ込む彼女だが、この職場は楽しそうだった。

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 わたし達の会話を聞きながら口元に笑みを浮かべていた雀ちゃんがメニューをめくる。

「雀ちゃん、わたしお腹減っちゃった」
「あ、やっぱりですか? 滝見に行っただけなのに、意外とお腹減りましたよね」

 いそいそとフードのページを開く雀ちゃんも、どうやら空腹だったみたい。
 歩くというのは、簡単で単純だけど、意外と、全身運動で消費カロリーも高いのかもしれない。

 わたしはサンドイッチとカプチーノ。
 雀ちゃんはエビピラフとカフェラテ。

 注文すると、マスターは「あいよ」と軽快に返事をした。

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 オーダーを終えた後も雀ちゃんは熱心にメニューを見つめている。

「もしかして他にも食べたいものあった?」
「あぁ、違うんです。すごく豊富なドリンクメニューだなぁと思って」

 ドリンクのページを見ると、確かに、コーヒー系だけ丸1ページは使っている。
 普通は、コーヒー系、ソフトドリンク系合わせて1ページくらいだろうけれど、ここのメニューは種類が多い。

「コーヒーだけでもこんなにあるんだね」
「ええ。うちの店でもこんな種類は出してないです」

 雀ちゃんが言う、うちの店というのはバイト先の事だろう。あのお店はお昼間は喫茶店として経営しているらしくて、雀ちゃんがコーヒーを好きになったきっかけは、そのカフェのバイトらしい。

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 時折カウンターの中から聞こえてくる道具の触れ合う音に顔をあげた雀ちゃんは、まるで見惚れるみたいに、マスターの手元を見つめる。

 まずはドリンクから作ってくれている彼は、やはり華麗で素早い動きで、今日はふたつ同時進行して作っているみたいだった。

 やっぱりわたしには、どの道具をどう使うのかはわからない。
 分かるのは、雀ちゃんがとても楽しそうだということ。

 ちらりと見遣った彼女の顔は、昨日と同様、とても輝いていた。

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 どんなふうに作るんだろう。
 どんな味がするんだろう。

 なんて事を考えているのかしら?

 まるで、おもちゃを与えられる前のワンコみたい。と若干失礼な感想を雀ちゃんに抱きながら、口元に笑みを乗せる。

 やっぱり、このお店に今日も来てよかった。
 そう思いながら、わたしは彼女の頭を撫でたくなる衝動を堪えていた。

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「お待たせしました。カフェラテとカプチーノです」

 ウェイトレスさんがわたし達の前にそれぞれのカップを運んでくれた。

「ありがとう」
「ピラフとサンドイッチはもう少々お待ちください」

 可愛い笑顔で会釈されて、目元を緩める。
 ほんとにわたしは気に入られているみたいね。暴露されたせいか、彼女は開き直って好意を全面に出している気配がする。

 まぁその気に入るっていうのは、恋愛感情ではないのは確かだけどね。
 憧れ的なそれを感じるわたしは、彼女から目の前におかれたカップに視線を落とした。

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「……うま」

 隣では、すでにカップに口をつけていた雀ちゃんが、低く洩らす。
 唸るように言ったその口でさらに二口、三口と含む彼女は嬉しそうだった。

 ミルクの泡がふんわりとカップ表面を覆う。その中心に、どうやったのか、茶色い星マーク。
 たぶん、ココアかコーヒーの粉か何かで、書かれたそれは可愛らしい。

 カップに口を付けると、ゆっくりと傾けて、クリーミーな泡と奥に潜んでいた液体を口に招き入れた。

「ん……ぅ」

 ミルクの泡のおかげで随分と軽減されたけれど、これは……苦い。
 嫌な苦みではないんだけれど、苦い。ぅわ、苦い。口が大変。にが。

 わたしはカップから口を離して、雀ちゃんを見た。

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「昨日より苦い」

 昨日は苦くなかったのに、と言うと、笑われた。
 上唇についた泡を拭いながら「なんで笑うの」と責めれば、彼女はわたしの手元にシュガーをおいてくれる。

「愛羽さん、その泡の下にあるのは、エスプレッソですから。簡単に言うと、物凄く濃いコーヒーです」

 それは苦いはずだ。
 彼女の解説を聞いてから迷いなくシュガーを入れ始めたわたしを見て、彼女はもう一度笑った。

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