隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ 37話


※ 隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 落ちる瞼。

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 ~ 湯にのぼせて 37 ~

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 可愛い。
 どうしよう。

 どうしようも何も、絶頂を迎えたあと、力なくクタリと四肢を投げ出している彼女を綺麗に拭ってあげて、浴衣を着せてあげて、就寝。それ一択なはずなのに。

 彼女の口から、吐息が零れる度に、合わせて催淫剤でも漏れ出しているのかと思うくらい、ゾクゾクする。
 都合良く、まだ、わたしの指は彼女のナカへ埋め込まれたまま。

 ――またこの指を動かしてしまおうか……。

 凶悪な考えがむくむくと頭を擡げてきた。

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「ん……、愛羽、さん……」

 少し掠れた声に呼ばれて、彼女の身体から、瞳へと視線を向けた。
 視線が絡むと、雀ちゃんは笑う。
 力があまり入らないのか、へにゃりと笑う顔が、子供っぽくて可愛い。

 ――そんな可愛い顔されたら、悪いコト、出来ないじゃない。

 毒気を抜かれたわたしは心中で呟き苦笑すると、「指、抜くね」と小さく断って、ずるると引き抜いた。

「……っひ、あ」

 分かる。その指を抜かれる時に声が出ちゃう感覚はよく分かる。
 でも、そんな可愛い声聞かされたら、またムラムラしちゃうじゃないの。

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「可愛い、雀ちゃん」
「何も可愛くないですよ……」

 漏れた声を恥ずかしがるように口に手を当てる様子もまた可愛い。
 本当にまた指を入れてやろうかしら、なんて思うけれど、ぽやっとした表情を見ては、それも出来ない。

 わたしはティッシュに手を伸ばした。

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 指と彼女の身体を拭って、どちらが着ていたか分からない浴衣の片方を雀ちゃんに着せてあげる。
 どうせ、フリーサイズだし、明日には仲居さんの手によって回収されるものだし、どちらを着ても構わないだろう。

「愛羽さんは、いいんですか?」
「ん? 何が?」

 質問の意味を理解しかねて、浴衣を着ながら首を捻る。
 そんなわたしに言い難そうに、きょろ、と視線を彷徨わせた雀ちゃんはおずおずと口を開いた。

「愛羽さん、イッてないでしょ…?」
「あー……」

 実はすでに軽くイキました。なんて言えない。
 わたしはにっこりと笑みを貼り付けた。

「今日は雀ちゃんの可愛いトコいっぱい見たから、それで十分なの」
「……そう、ですか?」
「ええ」

 頷くと、彼女は納得したように、小さく頬を指先でかきながら「そっか」と呟いた。

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 でも、これは、あながち嘘でもない。

 雀ちゃんも普段から言っていることなんだけど、行為をする側になると、相手を満足させると、意外とこちらも満足するのだ。
 多分、精神が肉体を凌駕した状態にでもなるんだと思う。

 浴衣の腰紐をきゅっと結ぶと、電気を消して、わたしは彼女の隣に寝転がった。

「好きよ、雀ちゃん」

 向かい合うように横向きに寝転がったまま言うと、雀ちゃんの目が細められた。照れくさそうにするのは、自分がされたばかりだから?

 そんな彼女が珍しくて、揶揄うようにその頬をつんつんと突く。

「雀ちゃんは? わたしの事好き?」
「好き、です」

 暗くなった部屋では、彼女の顔に赤みがさしているかは見えないけれど、声と気配で照れているのは判る。
 素直なその反応に、わたしは小さく笑った。

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「そんな照れなくてもいいじゃない」
「照れますよ、慣れてないですもん」

 やっぱり。自分がされた側だから、恥ずかしいんだ。

 わたしは手を伸ばして彼女の髪を梳くようにして撫でる。いつもは指通りのいい髪だけど、さっきの行為のせいか、たまに指が通らず引っかかる。
 それを少しずつ解くように何度も何度も撫でていると、雀ちゃんの瞼がゆるりゆるりと落ちてきた。

 少しトーンを落とした声で、彼女の眠気を邪魔しないように囁く。

「眠たい?」
「ん……きもちよく……て」

 途切れ途切れに紡ぐ言葉も、少し呂律が回っていない。
 続けて髪を梳きながら、わたしは囁く。

「おやすみ」

 行為の後、物凄く眠くなるのも分かるし、若い子みたいに「ピロートークしようよ!」みたいな欲求もない。

「……すみ……い」

 吐息だけで喋るようにして雀ちゃんが「おやすみなさい」と言い終わると同時に、彼女の瞼が完全に閉じた。
 髪を梳く手を止めずに、しばらく、その寝顔を眺める。

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 雀ちゃんは起きている時よりも、寝顔の方がずっと幼く見える。
 そんな顔を知っている人は、彼女の人生の中で何人いるのだろう。

 正直、恋人の過去が気にならない訳ではない。けれど、それを探ることはタブーではないかと思う。
 そういった事をオープンに自分から話す人なら、特に気にせず聞けるんだけど、彼女は過去についてあまり喋らない。

 思い出されるのは、以前、一度だけ目にした、雀ちゃんのパニック状態。
 わたしに恋愛感情を抱いているのだと告白してくれた直後のあれは、今でも忘れない。

 多分雀ちゃんは、過去に、トラウマがある。
 それも告白か恋愛に関するトラウマ。

 わたしと雀ちゃんの間では普通になっている同性愛。
 でもそれは、日本の世間では異端だ。

 一昔前よりは随分と浸透してきたが、世界から見れば時代遅れの日本ではまだまだという言葉が適している状態。

 どれ程の傷をその心が負っているのかは、わたしには分からない。
 無理に聞き出そうとも思わないし、彼女が話したいと思ってくれたなら、いつでも事情を聞く。

 でも。まだ、その時ではない。

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 さらりと撫でた前髪が、彼女の目にかかる。
 それをかき上げて額にキスをして囁く。

「大好きよ、雀ちゃん」

 いつか絶対、その傷、癒してあげる。

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