※ 隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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照れ屋スイッチ。
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~ 湯にのぼせて 24 ~
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『温野菜屋』で昼食をとって、ぶらぶらと歩きながら旅館へと帰る。
カウンターで部屋の鍵をもらうときに、夕食の時間を聞かれたので昨日と同じ時間でお願いしておいた。
これから部屋でゆっくりしてもいいし、また温泉に向かってもいい。
さすがに今日は湯あたりを起こさないようにしようとは思うけれど。
部屋に戻ってきて座椅子へ腰を落ち着けると、人の多い通りを歩いて疲れたせいか、初日のように「さぁお風呂に行こう!」みたいな気分にはならない。
「雀ちゃん、夕食まで時間あるけどお風呂行く?」
「うーん……」
彼女もどうやらわたしと同じのご様子。
ぽやっとした顔でどちらともつかない返答をして、座椅子に寄りかかって、こてんと首を傾げた。
「どうします?」
「ちょっとこのまま、まったりしよっか」
傾げていた首が、今度はこくんと頷いた。
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ゆるい空気のまま過ごす時間は、なんだかここが自宅のような、落ち着く感覚。でも、畳のいい匂いがして、ここは自宅ではないんだと主張している、落ち着くような落ち着かないような妙な感じ。
座椅子に座って、テーブルへ頬をくっつけて体を預けて、テーブルの上にだらんと手を伸ばす。
ひんやりと冷たいテーブルは気持ち良くて、そういえば今日は外を歩いたときに紫外線すごく浴びたなぁ、と熱い頬を冷やす。
ちゃんと日焼け止めは塗っているけれど、紫外線にあたらないに越したことはない。
いつまでも、とは言わないけれど、出来るだけ綺麗な肌でいたいしね。
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どうして綺麗でいたいのかというと……やっぱり、恋人の存在が大きい。
雀ちゃんはよく「かわいい」とか「綺麗」とか口にしてくれる質なので、こちらとしても、張り合いがあるのだ。
例外の人もいるけれど、男の人は基本的に、そういう事は口にしてくれないから、雀ちゃんと付き合ってから、褒められてそれを糧に頑張ろうと思える現象を体験した。
人に見られていると思うとそれ相応に綺麗になろうと努力できる。
それが最も好きな人なら、なおさらだった。
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――わたしの中で雀ちゃんの存在って大きいのよねぇ。
知らずのうちに頬を緩ませていると、わたしがテーブルに投げ出していた手に、指が絡んできた。
頬をテーブルにくっつけた状態で、雀ちゃんの動向が全く見えていなかったわたしは驚いてピクンと指を跳ねさせたけれど、ゆるりとそれを弛緩させた。
テーブルの向こうからは小さく笑う息が聞こえたけれど、わたしはそのまま、テーブルを頬にくっつけたままにした。
彼女の好きにさせていると、指同士を絡めるように雀ちゃんの長い指が擦り寄ってきた。
向かい合わせの位置からでは、完全に手を繋ぐことは出来ないけれど、指同士を深く絡めて、雀ちゃんはわたしの手をきゅっと握る。
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――な、んか……これ、くる……。
どきり、どきり、と僅かに速く、大きく、聞こえてきた自分の鼓動。
その理由は、視界にある二つの手が絡まるその光景。
パソコンのタイピングでも少し苦労するくらいに小さめなわたしの手に、雀ちゃんのそれが重なると、彼女の指の長さが強調される。
その指が大事そうに、わたしの手の甲を撫でるとまるで「好きです」なんて言われているみたい。そんなわたしの勝手な妄想が正解かどうかはさておき、撫でてくる指が長いのは事実。
――……その指が昨日、わたしの中に……。
なんて思うと、余計、心臓の音が速く、大きくなった気がした。
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て、ていうか。
指見ただけでえっちな事考えるとかどれだけ欲求不満なのよわたし……! 昨日も二回してもらっちゃったばっかりなのにっ。
自分のはしたなさに、顔に熱が集中する。
この熱さ……たぶん今、顔赤い。
雀ちゃんがわたしの顔を覗き込んでいる訳ではないかもしれないけれど、見られているのかもしれない。
わたしの視界には雀ちゃんの肘から下しか映っていないから、彼女がどこを見ているのかもわからない。
そんな状況がまた、違う意味でもわたしの心臓をドキドキさせる。
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そんなわたしの心を知ってか知らずか、雀ちゃんの手は、握っては開き、握っては開きを繰り返す。その力加減は少し強めだったり、弱かったり、いろんなパターンを織り交ぜていて、わたしの心臓を休ませてくれない。
耐えきれず、彼女の手を捕まえる。
こちらから深く指を絡めて、きゅうと握った彼女の手が、わたしよりも低い体温なのは、気の所為なんかじゃないと思う。
「あ」
捕らえられたことに声を上げた雀ちゃんは、そのあと小さく笑って、わたしの顔を覗き込んできた。
「耳も赤かったですけど、顔は真っ赤ですね」
視界にひょいと飛び込んできた雀ちゃんの顔は、優しく笑っているものの、意地悪な目だ。
セリフからしても、上からわたしの耳が赤いのが見えていて、照れているのを察したうえで、何度も手を握ってきたのだ。
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「手握るくらいで照れてるんですか?」
今更なにを、と言外に含んだ声で言われるけれど、わたしが照れるポイントはそこじゃない。
でも、指を見てえっちな事想像してました、なんて説明できるはずもなくて、口を引き結ぶ。
「可愛い、愛羽さん」
一文字の口は、余計、照れているようにでも見えたのだろうか。
――だから、違うんだってば。
なんて心の中で言い返しながらも口から出せたのはいつものセリフ。
「……るさい」
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それから、揶揄われているんだか、いちゃついているんだかわからないような問答を繰り返していると、ひょいと握った手を持ち上げられた。
あがった手につられたように、テーブルから頬を離して体を起こす。
すると雀ちゃんは上機嫌そうに唇の端を吊り上げて、わたしの手を下から掬いあげる形に持ちかえる。
手だけ見れば、「Shall We Dance?」状態だけど、全体像は座椅子に座ってお手という謎な状態だ。
「好きです」
ちゅ。とわたしの手に口付けた雀ちゃん。
日本人でこんな事する人がいるだなんて……。と、冷静に彼女の行動を分析して感想を出すわたしが頭の中に存在する一方で、こんなクサイ仕草でも、ドキドキして、何も言えなくなってしまっているわたしも居た。
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まるで金魚か鯉のようにぱくぱくと口を開閉させるけれど、言葉が出てこない。
それは脳が甘く痺れているせいかもしれない。
「好きです。愛羽さん」
言葉を重ね、わたしの名前を大事そうに呼ぶ雀ちゃんの目は、いつの間にか意地悪が抜け去って、そこにあるのは優しい色。
さらに、口付けた手を軽く握ってくる仕草にまた、わたしは心臓が壊れるんじゃないかと思うくらいに鼓動を感じた。
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見つめるその瞳が、弧を描いて、唇の両端も上向く。
「さっきより、真っ赤。可愛い」
嬉しそうに、また笑う彼女。
今ほど、このテーブルが邪魔と思ったことはない。
だって、こんな甘い言葉を告げられて照れた顔を隠す術がない。このテーブルが無ければ、彼女に抱き着いて、胸に顔を埋めてしまえばそれは叶うのに。
このテーブルに、阻まれる。
なんで、今日に限ってこんなに照れてしまうのか。
何かスイッチが切りかわってしまったみたいに、恥ずかしくて、照れくさくて、いつもみたいに上手く躱せなかった。
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