隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ 109話


※ 隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 朝のひととき。

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 ~ 湯にのぼせて 109 ~

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 ぼんやりと瞼の向こうにあるのは、白色。

 ……白……? ううん、違う。これは光だわ……。

 夢と現との境目でゆらゆらと漂っている思考では、ゆったり、まったり、としか考えが進まない。
 目を閉じているわたしの瞼の向こうにあるのは、多分、朝日。

 ここまで考えが至ると、あぁそういえばわたしと恋人の雀ちゃんは旅行中で、ここは温泉旅館の一室。目を開けると、自宅とは違う天井が広がるはずだ。

 そして、この天井とも、今日でお別れ。

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 チェックアウトの日だと思い出して、名残惜しく寂しい感情が胸に広がった。けれど、それを包むのは、この3日間の思い出たち。優しくて、楽しい思い出。温かい感情が寂しさを和らげる。

 ゆっくりと瞼を押し上げると、やはりそこに広がるのは、慣れない天井。数回瞬きをしながら、感慨深くその茶色い天井の木目を眺めていると、すぐ傍から声が掛かった。

「おはようございます」

 すでにもう起きていたような寝惚けていない声。
 寝起きのとろんとした雀ちゃんの声も好きなんだけれど、と思いながら、声のした方へ視線をやる。

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 雀ちゃんの声は、隣の布団あたりから聞こえた。が、寝転がったわたしに降ってくるような感じを受けたから、たぶん、雀ちゃんは体を起こしているんだろう。

 首を巡らせて、隣を向く。
 すると朝日を背負っている雀ちゃんがそこにいる。そこまでは予想通りだった。でも、彼女の恰好を見て、この旅行中で、多分、一番慌てた。

「なっ、んでもう服着てるの…!?」

 正確に言うなら、なんでもう浴衣から私服に着替えているの、だけれど、そこまで頭も口もまわらなかった。

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「え? あ、起きるのがちょっとだけ早くて」

 後ろ頭へ手を回してカリカリとかく仕草をしながら笑った彼女。だけどわたしの頭の中では、「今何時?」「寝過ごした?」「起こしてくれたらよかったのに」「寝顔眺められてた?」などなど、言いたい事がひしめき合って、喉辺りで渋滞を起こしている。

 そんなわたしの顔色を見て、彼女は小さく笑う。

「とりあえず、落ち着いてください。寝顔可愛いかったです」

 やっぱり見られてた! と思うと同時に、頭の下の枕を片手で抜き取って、彼女の顔面へと放った。

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 寝起きにしては、素早い枕投げだったと思うけれど、完全に覚醒している人からしてみれば、のろのろな動きだったのかもしれない。
 飛んできた枕を腕でガードした雀ちゃんが「あっぶなー」と言いながら、笑っている。

 いつもいつも、先に起きたらわたしの寝顔眺めるの恥ずかしいから止めてって言ってるのに、という不満の上に、投げた枕が彼女の顔面を襲わなかった不満が上乗せされて、わたしをムッとさせる。

 かといって、本気で怒る場面でもないし、ふん、と鼻を鳴らしてとりあえず、鉾を収める。

「今度わたしが先に起きたら絶対、寝顔眺めてやるんだからね」

 完全に負け惜しみを言って、あっかんべ、と舌を突き出してみせてから、体を起こした。

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 雀ちゃんが着替えているのなら、わたしだけ浴衣というのもなんだし、身支度を整えてから朝食をいただくことにした。
 わたしの身支度が整うまで、雀ちゃんには待ってもらうことにはなるけれど、まぁそれは寝顔眺め代として、待っていてもらうことにしよう。

 わたしが部屋についている小さなお風呂でシャワーを浴びてでてくると、布団が部屋の隅に畳まれていた。

「お布団、ありがとう」
「いえいえ」

 なんのこれしき、とか言い出しそうな程、人のいい笑みを浮かべる彼女は、それからもわたしの身支度が整うまで、特に文句を言う訳でもなく、不機嫌になるでもなく、待っていてくれた。

 じーっとわたしがお化粧をする様子を眺めているのは少し、居心地が悪いというか妙に緊張してしまって、チークが濃くなった。指で擦って誤魔化しながら、横目で雀ちゃんに尋ねる。

「暇じゃないの?」
「愛羽さんがお化粧してるの見てるの、好きですよ」

 にこにこな笑顔を向けられると、多分本心なんだろうなぁと分かってしまう。
 ほんと、この子は大学生にしてどうしてここまで純粋というかいい子というか、天使みたいに育ったのだろうか。
 いつか、彼女のご両親に会ってみたいなと漠然と思った。

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