隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ 108話


※ 隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 まだ眠る貴女。

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 ~ 湯にのぼせて 108 ~

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 妙な胸の高鳴りはすぐに収まった。
 しかし、テンション上昇により少しのぼせてしまったようで、脱衣場へと移動して浴衣を着るのには、いつもより時間がかかった。

 沖田さんは平然とした様子で私よりも早くに鏡前へ行き、備え付けられた椅子に腰を下ろしてドライヤーで濡れた髪を乾かしていた。やはり、温泉というものに慣れている証拠かもしれない。
 遅れて私も、1つ席を開けた隣へ座り、ドライヤーを手にとる。

 こういうとき、髪が短いとタオルドライでほぼ乾いているため楽だ。元々洗髪はしていないし、濡れた襟足の所だけ乾かすなら、なお早い。

 熱風のあと、髪と肌を冷やすためにスイッチをCOOLに切り替えて浴びていると、すこし頭が冴えてきた。

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 そういえば、愛羽さんはもう目を覚ましただろうか。
 携帯電話にメッセージを入れておいたけれど、それには気付いてくれたかな。

 こう連日一緒にいることも珍しくて、すこし離れただけでなんだか寂しい気分になってしまうのは困りものだ。

 そんな事を考えながらドライヤーのスイッチを切って、持ってきた櫛で髪をとく。
 そうしていると、沖田さんも髪が乾いたようで、ドライヤーのスイッチを切っていた。

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「そういえば、金本様はまだお休みですか?」

 いつも一緒に居た私達を知っているからだろうか。沖田さんは鏡に写った私に笑い掛けてくれる。
 彼女に頷きながら、私は床に落ちた髪を拾って近くのゴミ箱へと捨てた。こういうのはエチケットだと思う。

「気持ちよさそうに寝ていたので、起こすのも可哀想かと思って一人で来ちゃいました」
「ゆっくり休んでいただけて、仲居としては嬉しい限りですけれど、安藤様からすると少しお寂しいのかもしれませんね」

 な、なぜそれを。
 どうして見抜かれてしまったのかは謎だけれど、白々しく「いやいやそんなことないですよ」と一応、否定しておいた。ちょっとした見栄で。

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 ドライヤーを片づけて、床に落ちた髪を拾いゴミ箱へ捨てた沖田さんは、荷物をまとめて小脇に抱えた。

「安藤様にも、金本様にも、本当に、感謝しております。ありがとうございました」
「い、いえいえ、もうそんな、ほんと、気にしないでください。そんな大したことはしてないんで。愛羽さんもそう言うと思いますし、あの…」

 チラ、チラ、と左右を見回し、人がいないことを確かめた上で、すこし声をひそめる。

「昨日のアップグレードしてもらった夕食も、物凄く美味しかったですし」

 それで、おあいこどころか、多分お釣りをこっちが渡さなきゃいけませんから。と笑ってみせると、沖田さんは微笑んで、何も言わずにもう一度だけ、頭を下げた。

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 頭をあげた沖田さんは、先程までの話題には触れずに、気を付けて帰るように、と親切に言ってくれた。
 そして仲居らしく、チェックアウトの時間を教えてくれて、静かに脱衣場から姿を消した。
 今日は非番だからといって、あまり、仲居が施設内を私服でうろつくのは好ましくないのだろう。

 彼女が姿を消すと、私も部屋へ帰るべく、荷物をまとめた。
 そうこうしていると、数人が脱衣場へと入ってきた。そろそろ、皆が起き出す時間なのだろう。

 私は大好きな恋人が目覚めたことを想像しながら、その場を後にした。

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 何度となく歩いた廊下を辿り、部屋へ帰ってきて静かに鍵を開けると、どうもまだ、中は静かだ。

 そっと覗いてみると、愛羽さんの眠っている布団が静かに上下している。

「……もしかしなくても、昨日のえっち、頑張り過ぎたかな……」

 今日立てなくなってたらどうしよう、と深い眠りの姫の身体を案じるのだった。

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