※ 隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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仲居さんとお風呂。
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~ 湯にのぼせて 106 ~
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柔らかく微笑むその人を立ったまま見下ろして、出会った驚きの裏で少しだけドキドキする。なんというか、その……。
数日間、仲居さんとして私達のお世話をしてくれたいつも着物姿だった人が、一糸纏わぬ姿で目の前に居る。そのギャップに、正直どきどきする。
い、いや別に女の人の裸を見たからドキドキするとかじゃなくて……! それは決して本当に! 愛羽さん以外の人にドキドキしただなんて知られたらもう抓られる。
そんな事を瞬間的に考えていると、また鼻がムズついてクシャミが出た。
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ずびっと鼻水をすすると、仲居さんは眉尻を下げて私を手招きする。
「風邪をひいてしまいますよ。お早くこちらに」
場所を空けるように浴槽の中ですこし横へずれてくれた仲居さんに、「すみません」と軽く頭を下げ、そっと湯船へと脚を差し入れた。
胸までお湯に浸かると、熱めのお湯に体を包まれ、自然と深い溜め息のような長い吐息が口から零れた。
「ここの温泉って気持ちいいですね」
「そう言って頂けると嬉しいです、ありがとうございます」
微笑んだ仲居さんは、すこし悪戯っぽく笑って内緒話をするように声をひそめた。
「と、言っても私、今日仲居の仕事、非番なんですけどね」
「ああ、だから温泉に」
仲居さんが仕事中に温泉に来ているだなんて、と一瞬は考えなくもなかったけれど、そういう事なら納得だ。
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「他の温泉旅館だと従業員は利用禁止の決まりがあったりする所もあるみたいなんですけれど、うちは非番の日のみ大丈夫なんです」
声を潜めて内部事情をこっそり教えてくれる仲居さん。
でも、そういうのって……。
「客にそういうのってバラして怒られないんですか?」
「金本様を信用しておりますから」
にっこりと笑顔を向けられたが、その呼び名にちょっと驚く。けれどすぐに、この旅館を予約した名前が愛羽さんの名前で、私の名前は知られていないからだと気付く。
百面相でもしていたのだろうか、仲居さんは口元へ手をあてて小さく笑った。
「もしかして、お名前が違いましたか?」
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なんとなく、思った。
この仲居さんの頭脳というか、頭の回転する速さが愛羽さんやまーさん、店長。そのあたりの人達と同レベルはあるんじゃないかな、と。
お見通しですよ、というような瞳に笑いかけられて、こちらも破顔する。
「安藤雀といいます。今更ながら」
ぺこ、と頭を下げると、仲居さんは”やっぱり”というような表情。
もう今日の午前中にはチェックアウトをしてこの旅館を後にするのだから、今更も今更な自己紹介だが。
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「沖田雪乃と申します。今更ながら」
私の言葉を真似て、悪戯っぽく笑うところがなんだか愛羽さんのようで可愛らしい。
たぶん、仲居さん――もとい、沖田さんは愛羽さんよりも年齢がひとまわり以上は上な気がする。だからといって皺が目立つ、とかはなくて、お肌もつやつやで綺麗な顔立ちに更に磨きをかけている。
こうして時々温泉に浸かっているから、肌が綺麗なんだろうか。
そんな事を考えつつ、今更ながらの自己紹介に二人で笑顔を交わした。
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「あ、そうだ。あの時、そこで会った外国人さんはその後、大丈夫でしたか?」
夕食のときにちらっとそのことは聞いたけれど、一応、気になったもので尋ねてみる。
私の言葉に、沖田さんは申し訳なさそうに眉をハの字にして、小さく何度も頷いた。
「あの時は本当に、助けて頂いてありがとうございました。その後はなんとか、通訳の方も到着して、無事に」
「それはよかったです。でも、あれじゃないですか? お風呂に来るまでも日本語が使えないとなると、結構いろいろ大変だったんじゃないですか?」
仮に、私のバイト先に外国人さんが来られたとして、物凄く困る。もうボディランゲージフル活用だ。
しかし、着物を着た仲居さんが、身振り手振り激しく会話するというのも、中々想像しにくいものだ。
現実は私の想像通りだったのか、沖田さんはその時の出来事を思い出すように宙に視線をやって、苦笑した。
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「ええもう……お言葉通りで。なかなかの難題を頂きまして、家族総出でバタバタしてしまいました」
頬に手をやって、ほぅ……と疲れたような溜め息をついた沖田さんの言葉に、私は「へぇ」と声をあげた。
「ご家族の方もこちらで働かれてるんですか?」
「…………ええ。息子が、一人厨房に」
まだ見習いも見習いなんですけれど。と笑うその顔が、なんだか照れくさそう。母としての顔を垣間見て、なんだかドキドキしてしまう。
私がまじまじと彼女の顔を見ていたせいか、沖田さんは顔の前でパタパタと手を振る。
「娘も一人いまして、近くの喫茶店でウェイトレスのアルバイトしているんですよ」
照れ隠しのようにそう言った沖田さんの言葉が、妙にひっかかった。
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