隣恋Ⅲ~湯にのぼせた後は~ 7話


※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 仕事終わりのOL二人。

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 ~ 湯にのぼせた後は 7 ~

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 翌日、わたしは会社が終わった後、まーを誘って外食をすることにした。
 建前としては今日会社で起きた事件の事を話したい、というものだったけれど、本当はそんなの社食で一緒に食べているときに済ませてしまえる程度の話だった。
 ま、要は、たくあんじゃあ足りない分の補填といいますか。まー本人はそんな高いものじゃないと言っていたものの、流石にあのレベルのお土産をたくあんと一度の夕食で返しきれたとは思わない。
 雀ちゃんが凄く喜んでいたっていうのも伝えたいし、ハワイに誰と行ったのかっていう所も問い詰めたいし。

 まぁ色々と聞きたいことも喋りたいこともあるから、まーを誘ってやってきた居酒屋さん。
 ここはつくねが絶品で、わたしのお気に入りの場所。

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「とりあえず、生とカシスオレンジと枝豆で」
「かしこまりました」

 席に着くなり、水とおしぼりを持って来てくれた店員さんに適当に注文するまー。
 こういうの、男の前じゃしないんだろうなぁと思う。けれど、女同士だし友達だし、ささっと行動してくれるところにはいつも助かっているし、ありがたいなぁと思っている。

 店員が去って行ったあとに。

「カシオレでよかった?」

 と聞いてくるところは、呆れる部分もあるけれど、それが森真紀という女だ。そこがいいとも思う。
 小さく笑って、わたしは頷いた。

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 運ばれてきた生ビールとカシスオレンジのグラスを合わせて、乾杯する。
 相変わらずのいい飲みっぷりで半分くらいまでを一気にのんだ彼女が、メニューをめくりながら「お腹へった?」と首を傾げた。

「凄いお腹減ってる。つくねがとりあえず食べたい。あとは適当に」
「おっけい。任せろ」

 流石、合コン慣れしている彼女だ。ペラペラとメニュー表をドリンクのページまで一巡し終えると早速店員を呼ぶ。
 基本的に声がでかいし、通る声なので、ガヤガヤした飲み屋の中でも店員さんに見つけてもらいやすい。

 数種類のメニューを注文してくれたまーが、最後に「あと生」と付け加えたのには、すこし驚いたけれど。

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 オーダーをとってくれた店員さんが去ったあと、またグビグビとビールで喉を潤す彼女。

「ねぇ、いつもより飲むペース早くない? 大丈夫?」

 昨日自分が旅行疲れが抜けないご老体だとか言ってたじゃないの。と心配になる。いつもなら、半分くらい最初に一気したらあとはご飯と一緒に消化していくペースなのに。今日は枝豆すらまだ届いていないのに一杯目をあけてしまっていた。

「酔いたい気分なのよ」

 さらに、そんな事を物憂げな目付きで言うもんだから、わたしは余計に心配になった。

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「ちょっと、一体何が」
「あたしの話の前に、仕事の話。なんか常務から言われたアレは一体どうなってんのよ、金本」

 う…。
 まーがわたしの事を苗字で呼ぶとき、それは仕事で叱られるときだ。

 なんだかもう条件反射のように背筋が伸びて、カシスオレンジから手が離れた。

「だから、あれは多田くんがグダッてたから、ちょっとわたしが叱ったの」
「グダッてたとは?」
「見てなかったの? 机に突っ伏して1時半から寝てたんだってば」
「あたしその時会議だったし」

 そうか、だからか。
 まーが居たら、あんなあからさまなサボリいち早く発見されて、激を飛ばされている。いやもう、ゲンコツが落ちてもおかしくない程の、あからさまな昼寝だったのだから。

 お昼ご飯を食べてお腹いっぱいになって眠くなるのも分かる。分かるけれど、そこで寝たら学生と一緒じゃないか。
 イビキまで聞こえてきたから流石にいけないと思ってわたしが多田くんを揺さぶって起こして、その場で叱りつけた。

 それをたまたま居合わせた常務に見咎められて、わたしの方が呼び出しを食らってしまったのだ。意味が分からない。

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 まぁ……そんな理不尽が起きた理由は大体想像がつく。
 なぜなら、多田は常務の身内だから。

 日本の社会にはびこる嫌な風習よね。縁故って。それこそ実力社会になってしまえばいいのに。

 常務から怒鳴られる、ということはなかったけれど、「ほどほどにしておいてあげてくれよ」と釘を刺されたし、何よりもムカついたのはわたしが常務に連行されるときに、多田くんが”やーいやーい”みたいな顔をしたこと。
 まるで小学生男子が、陥れた相手を蔑むような顔。

「思い出しただけでも腹立つんだけど。なんでわたしがあの仕事の出来ない人に見下されなきゃならないのよ」

 店員さんが運んできた枝豆をプチプチとつまんで口に放り込みつつ話を聞いていたまーが、「どうどう」とわたしを落ち着かせようとするけれど、これが落ち着いてられますかって話よ。

「なるほどねぇ。まぁ大体は予想してた通り。その後、あたしの所にも常務から釘が刺されたんだけどねー」

 そう! それも腹が立つのよ、わたしに直接釘刺すならわかる。けど、わたしの直属の上司であるまーにまで常務が釘を刺したのが余計腹立つのよね。意味わかんない!

 わたしは怒りに任せて、カシスオレンジを飲み干した。

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