隣恋Ⅲ~湯にのぼせた後は~ 3話


※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 旅行のお供は…?

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 ~ 湯にのぼせた後は 3 ~

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 午前の仕事が終わって、お昼休憩。
 社食へ一緒に向かうのは、上司であり友人であるまー。

「そうそう。あれとは別に、まーにお土産あるからね。さすがに会社に持ってくるのはどうかと思って家にあるんだけど、いつ届けようか?」

 あれ、というのは朝長机に置いたお土産だ。
 さすがに、個別の土産を大っぴらにはできない。
 それにたくあんをここに持ってくる訳にもいかない。もし何かの衝撃で袋が開いてしまったら、あの匂いが会社を襲うのだから。

「奇遇、あたしもある。だから今日、家に行っていい?」

 まるでわたしの言葉を予想していたように、まーはさらりと告げた。

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 そんな訳で定時を過ぎて、まーを連れて帰路を辿る。
 しかしその途中で、家の冷蔵庫になんの食材もない事を思い出して、彼女には悪いけれどスーパーに寄っていくことにした。

 旅行で数日間家を留守にするから、冷蔵庫の中の食材を使いきって出掛けたのだった。 温泉から帰ってきたのは、連休最終日の夕方で、今から料理を作るのもなんだし、と外食で済ませたのだ。

「まー、何食べたい?」
「うーん。素朴な和食が食べたい」

 なるほど、海外に行っていた彼女からするとお米とお味噌汁が恋しいのだろう。
 じゃあ今日は定番的和食にしよう。
 白米、お味噌汁、肉じゃが、焼き魚。まるで旅館の朝食みたいだった。

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 必要な食材を購入して自宅へと戻る。

「適当にくつろいでて」
「はーい」

 言われなくてもソファへ吸い込まれるように座っていたまーに、小さく笑う。
 会社ではそんな素振りみせてなかったけれど、案外彼女も疲れているのかもしれない。
 いくら英語が喋れて、普通の日本人よりはハワイを楽しめたとはいえ、流石になれない土地では気疲れもするだろう。

 わたしはジャケットを脱いでハンガーにかけ、代わりにエプロンを身に着けた。
 順番としては、お米、肉じゃが、お味噌汁、焼き魚かな。

 一応全てを平行して作るけれど、少なくとも30分はかかっちゃうかも。

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 しばらく料理をして、わたしが焼き魚にとりかかる頃、ベランダの戸がコツコツとノックされた。

「はいはーい」

 雀ちゃんがベランダからやってくると知っているまーは、勝手知ったるなんとやらで、カーテンを開けて彼女を迎え入れた。
 手が離せないこちらとしてはとてもありがたい。

 カラカラカラ、と引き戸が開けられて、第一声。

「まーさん、どこ行ってそんな焦げてきたんですか……」

 驚いたような呆れたような、雀ちゃんの言葉だった。

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「ワイハ行ってきたのよ、ワイハ」

 親指と小指を立てた手を軽く振る仕草をしてから、まーはフラダンスを踊り始めた。

「え、ハワイとかメチャクチャ人多くなかったですか?」
「滅茶苦茶日本人多かったよ」
「そりゃそうだ」

 ゴールデンウィークにどどどっと人が日本から流れていくのだから、ハワイでの日本人比率が急増するはずだ。

 二人の会話を聞きながら、なんだかお母さんになったような気分で、わたしは魚を焼き網に乗せた。

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 味噌をといて、味をみて、火を止めると少し手があく。
 洗い物を済ませて二人を振り返ると、まーの土産話の最中だった。けど、ちょっとだけそこに割り込む。

「雀ちゃん、食べていくでしょう?」

 そう思って、すでに魚は3匹焼いているんだけど。まぁ余ったら余ったで、わたしが明日食べるし。

「頂いてもいいんですか? お邪魔じゃ……」
「そんな訳ないでしょ」
「そーだそーだ」

 消極的な遠慮の言葉を二人がかりで否定して、「お魚、もう雀ちゃんの分も焼いてるから食べていってね」と付け加える。
 まったくどうして、いつまでもこうして遠慮するのか。
 礼儀とは少し違った遠慮がいつもあることに、寂しさを覚える他に、感心すらしてしまう。

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 親しい中にも礼儀あり。とは言ったものの、あまりに身を引かれると、こちらが何かしてしまったのかしらと心配になってしまう。

 まーの土産話が再開されるよりも一瞬早く、雀ちゃんが首を傾げた。

「まーさん、誰とハワイ行ってきたんですか?」
「え」

 雀ちゃんの質問に、珍しく、まーが眉毛を片方ピクリとさせた。

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