隣恋Ⅲ~待ち合わせは企みの香り~ 7話


※ 隣恋Ⅲ~待ち合わせは企みの香り~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※

※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ……いま、なんて?

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~ 待ち合わせは企みの香り 7 ~

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 私の耳には「してあげる」って、聞こえたけど。

 えっと……「舐めたいの?」の言葉に頷いたら「じゃあ、してあげる」と。

 ……。

 ……。

 ……。

 うん、ちょっと意味がわからない。

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 目を点にしたあとは、途方に暮れた顔か、摩訶不思議ななぞなぞでも出題された顔だったんだろう。
 それまで、燃えあがっていた炎が揺らめき、彼女の瞳がすこしだけ優しくなった。

「雀ちゃんは、じっとしてて、ってこと」

 短く言葉を区切って囁く彼女の言葉を受け、ああじっとしておけばいいのか、と納得しかけ、止まる。
 いや、私がじっとしてたら、舐められないじゃないか。

 そんなふうに頭の中をグルグルさせている私をよそに、愛羽さんはゆっくりと私の唇へと、胸の頂を近付けた。
 ギシリとベッドが軋む中、私はそれを口に含もうとしたが、動きを止めた彼女の言葉に静止させられる。

「じっとしてて、って言ったでしょう?」

 半開きの口のまま、彼女を見上げればとんでもなく、意地悪な表情。目。

「そのまま」

 囁くように言いながら、私の肩に彼女が手を置く。そうして、自分の胸の頂を、私の唇に押し当てた。
 上唇、下唇それぞれを、尖りがなぞっていくのを感じながら、私は眼前の白い肌を見つめる。

 …………こ、……これは……。

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 動くな、と言われ大人しく従っている私もどうかしていると思うが、そう仕向けた愛羽さんも、だいぶ、どうかしている。

「……」

 そして、更にどうかしているのが、この状況に興奮を覚えている私だ。

 ――や……ばい……。

 半開きの口からは今にも荒く息が出そう。
 堪えて平静を装っているものの、いつあがってもおかしくはない。

 そんな我慢をする私の唇の上を這う胸の頂。
 今となっては、刺激で先程よりも硬くなったそれは、唇を弾くように擦り付けられる。

 ――……舐めたい……。

 じっとしてと言われた。動くのを禁じられた。
 そのおかげで半開きの唇をいいように使って、愛羽さんが吐息を零しながら、自身の胸に刺激を与えている。

 手伝いたい。
 もっと、気持ち良くしてあげたい。
 いつもみたいに、可愛い声が出るくらいに、貴女に快感を注ぎたい。

 沸々と腹の底で煮える欲。
 いつ噴き零れるか分からない。
 いっそ、もう、噴き零れてしまえと思うのに、私は律儀にも愛羽さんの命に従い、眼前の白い肌を見つめていた。

「舌、だして」

 上から降る吐息混じりのその声。
 彼女の昂った声を聞かされ、これからされるのであろう行為を思い浮かべて、私は脳が痺れるのを確かに感じた。

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 おずおずと、唇の間から差し出す舌を見下ろし、愛羽さんは言った。

「もっと」

 麻痺している。
 こんな彼女の命令に、従う自分はどうかしている。

 でも。

「舐めたいんでしょう?」

 なんて言われたら、この昂りに麻痺した頭では、言われた通りにするより他なかった。

「いい子」

 と、頭を撫でられると、従って良かったとさえ思い始めてしまう始末。

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 ――ああもう。どうにでもなれ。

 半ばヤケも混じりつつ、突き出したそれ。
 眼球を限界まで下へ向ければ僅かに自分の舌が見える。不細工な面で舌を伸ばしているんだろうと思うものの、近付く胸の尖りに、正直、ドキドキと期待が高まった。

 徐々に、徐々に、近付いてきた愛羽さんがついに、私へ触れた瞬間。

「……ぁ」

 零すような甘声が降ってきた。
 舌に触れた彼女の胸は、少し冷たかった。
 が、私の舌が熱すぎるのかもしれない。

 その温度差は愛羽さんも確かに感じたようで「あったかい」とやはり吐息混じりの甘ったるい声が感想を囁く。

 
 更に押し付けるよう、私の舌に沈み込んでくる胸の先端に、思わず、舌が動く。
 迎えるように。否、歓迎するように下から上へぷるりと舐め上げれば、吐息を逃がした愛羽さんが一旦離れながら、

「だめよ?」

 まるで犬にでも言い聞かせているように、ピシャリと、でも優しく、愛羽さんは言った。

 ――だめ、なのか。

 そして、犬扱いに反抗もせず、犬のように彼女の言葉に従い、動きを止めた自分がいる。
 

 離れた胸の頂が、また、舌に触れてくるのを待っている自分が、いた。

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「いい子」

 言う事を聞けば頭を撫でられた。
 そして、その手は後頭部へまわって、添えられる。

「そのまんま。いい子でね?」

 舌を出して、じっとしていなさい。
 その命と同義の台詞を告げた愛羽さんが、またゆっくりと近付いた。

 私はただ、ただ、待っている。

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 愛羽さんが言った、「じゃあ、してあげる」の言葉が現在遂行されている。
 私が突き出した舌へ、擦りつけたり、押し付けたり。
 自由に、思うままに、愛羽さんは自身の胸を私の舌に触れさせた。

 その光景は見方を違えると、私が彼女の胸の尖りを愛撫しているのと一緒。

 だけど、事実はまったくの逆。

 言いなりになって、従わされているのは私の方だった。

「……ん、……ぁ……」

 でも、愛羽さんが息を乱し、昂っているのは事実だ。
 胸の頂は他のなによりも正直で、今や、私の舌先よりも硬く尖り、ぷるりぷるりと弾くような感触になっていた。

 私の後頭部の髪をきゅぅと握る愛羽さんが、どんな顔をしているのか見てみたい。が、この位置と体勢からではどれだけ上目遣いをしても無理である。

 仕方ない。それならば……。
 私は耳、聴覚に神経を集中させて、上から降り注ぐ愛羽さんの吐息と甘声を拾い始めたのだった。

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「っ……ん、……ぅ」

 息を詰まらせて、時には、身体すら震わせて。
 彼女は私の舌に胸を擦りつけて、快感を得ている。

 最初は押しつけて離すだけだった行為も、今では、円を描く動きや、上下や左右の動きも取り入れ、大胆になった彼女。

 こんな行為をさせられるのは生まれて初めてだし、こんな愛羽さんを見るのも初めてだ。
 自ら動き、私の動きさえも封じて、己の快感を、己で生み出している。

 今の状況を俯瞰的に想像しただけで、私の頭はより強く痺れるのだった。

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「……はっ、ぁ……っん」

 もう、私の唾液で濡れきったその尖りは、つるりとして、でも、硬くて。……噛み付きたくなる。
 普段だったらとっくに、歯を立てて彼女を喘がせているくらいに、そこは充血しきっているのに。

 ――……したい。

 噛み付きたい。

 もっと、彼女の、声が聞きたい。

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 私の中に、凶暴ともとれるような欲求が溜まり始めたとき、彼女が、ふっと離れた。それと同時に、後頭部の手は落ちながら、私の首へと回された。
 もう片方も、私のうなじあたりに回される。

 ――急に、どうしたんだ……?

 私が驚いている間に、両手がきゅうぅっと、襟足を掴んだ。

 縋るような仕草に、胸が鷲掴みされたみたいに揺さぶられ、ときめく。
 可愛い。可愛くて堪らない。

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 辛うじてまだ膝立ちのまま、上体を前方つまり私の方へと倒し気味で抱き着いてきた愛羽さん。
 可愛いし、ときめくんだけど、一方で、一体どうしたんだと心配になる。

「愛羽、さん……?」

 背中を撫でてやりながら、そっと、身体を離してみる。
 大丈夫か? なにも言わないけど……。

 
 様子を窺う私の目に飛び込んできたのは、火照った顔、切なげに寄せられた眉、耐えるように噛んでいる下唇。
 そして極めつけに、潤みきった瞳。その奥の、燃え上がる炎。

 バクン、と、心臓が跳ねた。

 がしかし、次の瞬間には、愛羽さんに唇を奪われていて。
 甘いキスと言うよりは、どこか必死で、身体の中に渦巻く快感と、それの吐き出し処を見出せずに困惑し助けを求めるようなキスだった。

 こちらとしては、まずは驚いたものの、熱烈な口付けは大歓迎だ。
 動くなという命でフラストレーションが溜まっていた所に、なんの制限もない行為を許された。

 思う存分応じるし、こちらも欲を、吐き出させてもらおう。

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 耽る。
 その言葉がこれほど見合う口付けがあっただろうかと思うほど、濃厚な時間だった。

 燃え上がるような熱烈さも、焦らすようなか弱さも含むキスが、やがて穏やかさを取り戻し、ちゅ、と小さな音を立てて唇同士が離れた。

 ――やば……ちょっとクラクラする。

 余計にフラストレーション溜まったかもしれない。
 今すぐ、押し倒して彼女を思うままに喘がせたい。

 腹の底ではそんな凶悪を飼いながら、私は窺った。

「……あいは、さん……?」

 まだ乱れた呼吸を宥めきれていない彼女のとろけた目が、こちらを向く。

「す、ずめちゃん……どうしよ……」
「え?」

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 どうしよう、とは、何がだ。何か今、問題でもあった?

 赤い顔で、……いや、もとい、真っ赤な顔で、愛羽さんは言う。

「どうしよ……わたし……」

 愛羽さんは、私の手をとり、導く。

 唯一、身につけている布へと。

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 私はあまりにも、何のことを「どうしよう」と言っているのかが理解出来ずに、手は導かれるまま任せていた。
 視線はもちろん、彼女の真っ赤な顔に遣ったままだ。

 一体どうしたんだと心配を抱く私の目の前で、きゅ、とまた下唇を噛む愛羽さん。
 それと、ほとんど同時だったと思う。

 彼女に誘導されて下着の一部分に触れた私の指が、ずるりと、滑った。

 ……すべった?

 ……滑る? なぜ? 布なのに。

「じぶんであんなのしたくせに………………すごい濡れた」

 顔から火が出る、という言葉は今の愛羽さんの為にあるんじゃないかと思うくらい、彼女の顔は、真っ赤よりも真っ赤だった。

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