※ 隣恋Ⅲ~待ち合わせは企みの香り~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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彼女を翻弄しているとばかり思っていたけれど、実際、そうされているのは私の方かもしれなかった。
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~ 待ち合わせは企みの香り 5 ~
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息継ぎもろくに出来ないキスを繰り返しながら、愛羽さんを壁に押し付ける。
細い身体に纏っている浴衣は彼女が緩めたおかげで、すこし合わせを開けば脱がせることは可能だと思う。
でも。
「愛羽さん」
キスの合間に、名を呼ぶと、蕩けている瞳がうっすらと開かれた瞼の間から姿をみせる。
私はその目を覗き込みながら、囁いた。
「脱いで」
気持ちよくなってほしい。
続けて低く告げれば、彼女の瞳の奥にゆらりと火が現れた。
――……。
期待と興奮を更に私から引き出すそれ。
この火は、行為が進むにつれて大きくなり、やがて炎になる。その炎を瞳に湛えたときの愛羽さんは、正直、こちらの理性が丸々消し飛んでしまうほどに、婀娜っぽくなって困るくらいだ。
そんな危険極まりない炎に成り得る火種を、私は今、愛羽さんの瞳の奥に見た。
いつの間にか、私の首に回されていた腕が解けて、彼女の身体との間がすこしだけ空いている。
どうやら、小さな火にすら私は見惚れていたらしい。
彼女の手がいつ、その帯へとかけられたのかすら気が付かなかったから。
しかし愛羽さんの指は帯に触れている。ならばその指がどう動くか。この予想は外れはしないだろう。
そう期待を募らせかけた一拍の後、帯は完全に、床へ落とされた。
「……」
その間、憑かれたかのように彼女の瞳から目が離せず、私はゴクリと生唾を飲み込んだ。
落ちる帯も、それを引き下ろした指も、視界の隅でなんとなく見ただけ。もったいない。
滅多に見られるものではないのに、と惜しむ私の内心を知ってか知らずか、愛羽さんが言葉を紡ぐ。
先程まで恥ずかしがっていた彼女からは想像もつかない要求が、私へ向けて紡ぎ出されたのだ。
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「雀ちゃん、見てて」
「……え?」
口元に笑みさえ湛えた彼女は、私の頬へ手をあててそっと俯かせた。
「え?」
――下向くのか……?
彼女の行動の意図がわからなくて聞き返すばかりだが……どういう……つもりなのか。
誘導のままに俯けば、当然、乱れた浴衣が目に入る。
これを、見ていろってことなのか?
まだ理解が及ばぬ私に、愛羽さんはくすりと笑みを零した。
「脱いでって言ったのは貴女でしょう? ちゃんと、見てて」
「っ」
私の為に用意された、分かりやすい説明。言葉が詰まって、私は意味もなくただ唾を飲み込んだ。
――み、てて……って……。
また、心臓の音が耳の傍で聞こえ始めちゃったじゃないか。
身体が熱くなってきちゃったじゃないか。
そんな文句を胸中へ垂らす私には構わず、彼女はゆっくりと浴衣の合わせに手をかけ、開く。
浴衣の襟から覗く白い肌や胸の谷間を視覚で捉えれば、大きな手が心臓をきゅっと掴んだような感覚に襲われる。
何度も彼女の裸なんて見ているし、その肌の感触だって知っているはずなのに。
なんで、こんなに。
合わせから手を離した愛羽さんはゆっくりと手をおろし、帯があったあたりの細い紐の結び目を引き解く。
ゆっくり、ゆっくり。
緩慢と言っても過言ではない動き。
しなやかで、たおやかな細指の仕草。
――見てる、だけ、なのに……。
自分の中に、興奮が募っていくのが……分かった。
それと……今気が付いたけど、視覚だけじゃあない。
――いつもと違う、匂い。
彼女がいつも纏っている香水ではない。
なにか……私の貧相なボキャブラリーだと”和っぽい香り”としか表現できないんだけど、それが……布が擦れると匂いが濃くなるのだ。
加えて、花火の煙の匂いもする。
こちらは主張もそこそこな上に、私の脳に記憶されている愛羽さんが浜辺で花火を楽しむ可愛い姿を強制的に回想させる効果もあって……どうしようもなく、ドキドキした。
それら二つの相乗効果なのだろうと思う。……私が見る間に興奮していったのは。
しゅる、と浴衣と擦れる音を立てながら解かれた細紐は落とされ、帯の上へ。
縛るものがなくなった浴衣は、自然と、ゆらりと前がひらく。
ひらけた間から覗くのは、肌襦袢の白。
薄い布地には愛羽さんの肌が透けて見え、私は思わず、手を伸ばした。
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「だめ」
柔らかく言われ、手の甲を上から押さえられた。
「え?」
まさか、止められるだなんて思わなかった。
「見てて」
彼女の顔へ視線を上げれば、背伸びと共に口付けられる。
ふにりと柔らかい唇が私へ触れ、案外、素っ気なく離れてしまった。
物足りなさと不服を抱えた私が去る唇を追って再び重ねようと試みるが、胸に当てられた指先で、トン、と押し戻される。
そして、また、禁止の言葉。
「だめ。わたしが脱ぎ終わるまで、見てて」
ええぇ……それって……まさか……?
イヤな予感がする。
「触っちゃだめ。見るだけ、ね?」
――……やっぱり。
イヤな予感的中だ。
ね? とか言って目を細める愛羽さんはとんでもなく可愛いんだけれども、言っていることは相当だと思う。
触るの禁止とか、ない。
宣告された私がどういう顔をしていたのか分からないけれど、きっとすごい残念そうな表情だったんだろう。またクス、と笑われてしまった。
なのに愛羽さんの態度も、要求も、依然変わらない。
「見てて」
幾ばくか、一音ずつを区切り、さらに強調も加えた言葉を告げ、私の顔をまた俯かさせた彼女の豹変ぶりはどうしたことか。
さっきまで、恥ずかしいから脱がせて、と可愛らしい抵抗をして、自分で脱ぐのを拒否していたじゃないか。
なのに今は、私を煽るよう、じれったいくらいゆっくり、浴衣から腕を抜いている。
またそれが。
その仕草が、艶っぽくて堪らないのが、くやしいやら、恨めしいやら。
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――触りたい……。
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衝動をおさえきれず手を伸ばすが、さっきと同じように咎められてしまった。
代わりと言ってはなんだが、彼女から与えられたのは、軽く触れるだけのキス。
「がまん」
柔らかく、まるで子供へ言い聞かせるよう言ってくるけれど。
なにもできないまま、じれったい動きで脱ぐ愛羽さんを、ただ見ているだけなんてマジで辛過ぎる。
――早く、欲しいのに。
その想いが通じたのか、愛羽さんが浴衣を肩から落とし、身に纏うものは薄く肌が透けるほどの肌襦袢だけとなった。
が。
そこで、ふと、気付く。
「まさか……着けてなかったんですか?」
ブラジャー。
肌襦袢の向こう側に、その気配がない。白もベージュも、見当たらない。……イヤ、白っぽいものは……若干見えるんだが…………。
た、確かに、浴衣とか振袖とか着物を着る和装時は下着をつけないって話は聞いたことがあるけれど、それはもう大昔の話だと思っていた。
なのに、目の前に居る女性の肌襦袢の向こうには……。
「ブラは、着けてないけど」
私の反応を楽しんだ愛羽さんは合わせをくっと開いて寛げると、その奥を見せてくれた。
――なにか、細い布?
これは……。
「サラシ……?」
「正解」
つぶさないと不恰好に見えたから、とか呟きながら、愛羽さんは背伸びと一緒にキスをしてくれた。
今度は、すこし深めで、舌が触れ合った。
それまでは素っ気ない口付けだったくせに彼女は積極的に舌を伸ばし、私を撫でる。
くちゅ、と粘着質な水音がたち、後ろ頭が軽く痺れた。
が。
そこで感じる、違和感。
「……、な、にしてるんです?」
「わたしだけ脱がそうだなんて、不公平じゃない」
視線を下へずらせば、私の服のボタンを外している彼女の手。
い、いや、別に服脱ぐのはいいけど、今は愛羽さんのその肌襦袢をですね……。
「じっとしてなさい」
手を伸ばすと、怒られた。
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……なんでだ。
……いつの間にか、コトの主導権が愛羽さんへ渡っている。
……いつからこうなった……?
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そんな事を本気で考えている間に、私の服は剥ぎ取られて、なぜか先に下着だけにされた。
タチなのに。
床に散らばった服に視線を這わせて満足そうにした愛羽さんは、次は自身が纏う肌襦袢の腰紐に手を伸ばした。
紐の端。
親指と、中指で摘まむところがなんか……エロい。
そんな感想を抱いていると、フフと妖しく笑う恋人が私の頬を撫でてくる。
すり、すーり、と指の腹が肌を撫でてきて、同時に私を見上げる愛羽さんはどこか……にやりでもなくにんまりでもなく……だけどにんまりが一番近い、なんとも表現し難い妖しい口元で、また、笑った。
「……」
なんですか、と文句をつける事だって出来た。
人の顔見て笑わないでくれとか、早くその腰紐を引いて解いて見せてくれとか。
そういう要求はいくつか頭に浮かんだのに、私は結局口を開くことなく、自身の内へ立ち込めている期待と興奮に身を任せ、愛羽さんの腰へ視線を注いだ。
やんわりと、はんなりと。
緩慢な動きで蝶結びが引き解かれ、白くて細い紐がはらりと浴衣の上に落ちた。
――あぁ……ヤバい。
ただ腰紐を解いて、外しただけなのに。
その光景が、私の興奮を十分過ぎる程煽った。
辛抱堪らず彼女の腰に手をやって、唇を奪いながら背中へ手を回し、肌襦袢を下へと引っ張った。
「ん……せっかち」
一瞬の隙をついてそれを脱がせることには成功したが、愛羽さんに唇を噛まれる。
軽くひっぱってから離された唇は少し痛かったが、気にするほどでもない。それよりも、薄い色のショーツとサラシだけになった愛羽さんが、思っていた以上に色っぽくて目が奪われた。
「触っちゃだめって言ったでしょ」
咎めるよう言ったくせに、愛羽さんは私の首に腕を回してくる。
見惚れていた私が、え? と思ったときにはもうキスは始まっていて、彼女の長い舌が私の上顎にピトリと触れていた。
「んんっ」
マズイと思った瞬間には、彼女の舌先が弱点を抉っており、呆気なく私は感じてしまったのだ。
ビクと肩が震える。
唐突な上に、弱点。
加えて結構、久しぶりの刺激。
「ん……っ」
首の後ろあたりから、腰へと駆ける快感。
逃れようとしても、首へガッチリ回されている彼女の腕で、思うように動けなかった。
ぬるり、と滑る彼女の舌。
上顎を撫でて、くすぐって、舌も奥まで舐められて。
名前を呼ぶ事も許されないまま、それこそ……蹂躙される。
酸欠か、それとも快感のせいか。
頭がぼーっとしてきた頃にやっと離してもらえて、自由になった口は乱れた呼吸を繰り返す。
――くらくら……する……。
深いキスというのは、される側になると呼吸がすぐに乱れてしまうものだと、愛羽さんで初めて知った。
「おしおきよ」
さらりと頬を撫でるのは、勝ち誇った表情をする年上の恋人。
「言う事きかないと、次もこうなるわよ?」
愛羽さんが眇めた瞳の火は、先程よりも大きくなっている気がした。
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