隣恋Ⅲ~謎の小瓶~ 2話


※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ 謎の小瓶 2 ~

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 テーブルに置いてあったのは、小瓶。

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 目に留まったその小瓶を入手したのは、昨日のことだった。
 昨晩、愛羽さんとまーさんを「酔」まで迎えに行って、車でまーさんの家まで送り届けたとき。

 渡したいものがあるから部屋までついてきてくれと言われて、特になにも思わず、車から降りた。

 貸してたゲームかなぁ? と思いつつ、車の中に残る愛羽さんに、スマートキーを預けたんだけど、アラームが鳴ってしまうからと説明したが、彼女はよく理解していない顔をしていた。

 愛羽さんは車を所持していないので知らないのかもしれないが、エンジンをかけたままスマートキーを車外に持ち出し、離れると、警告音としてアラームが鳴り始めるのだ。

 一応、エンジンを切るまでは走行はできるものの、あれはうるさくてかなわん。だから気を付けろよと車の持ち主から忠告されていたのだ。

 もう夜中だったのでちゃんと、車の鍵をかけて待っているように言いつけて、まーさんの後を追った。

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「心配屋」

 ニヤニヤした彼女に腕を小突かれたが、あんな可愛い人だ、いつどこで攫われるか分かったもんじゃない。

「大事なひとですから」

 揶揄いに動じず返すと、まーさんは鼻の頭に皺を寄せた。

「リア充爆発しろ」

 いつもの台詞を頂きつつ、エントランスを抜け、たくさんの銀色のポストが並ぶ前で立ち止まった彼女が自宅のポストの鍵を外している。その横でなんとなくそれを眺めながら、私は何気なく尋ねた。

「まーさんそういう人いないんですか?」
「んー? いないねぇ……あ、今日元カレに会った」
「ええ!? タイムリー! どうでした?」

 過去付き合ったことがある人ならば、元サヤという可能性だってなくもない。
 少しだけわくわくしながら尋ねると、ポストの中から郵便物を取り出した彼女は横に首を振った。

「下半身が猿で、マザコンだった」
「ぅ、わー……」
「ないでしょ?」
「ないですね」

 歩き出したまーさんの後ろを付いて行きながら、それは随分なダブルパンチだなと眉を顰める。
 と、そこで気付いたが、昨日から徹夜仕事でさっきまで接待をしていたのだ。
 そのスケジュールでいつ、その元カレと出会ったのだろう?

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 エレベータの前で立ち止まり、まーさんのスケジュールにいつ元カレと会う隙があったのかと悩んでいると、彼女はこちらを流し見てから、唇の端で笑った。

「取引先の専務で、今日の接待の相手が、元カレ」
「……まじすか」
「クソほどマジだよ」

 音もなく開いたエレベータに私達ふたりはうんざりした顔で乗り込んだ。

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 扉が開いたエレベータから降りて、一番端まで廊下を歩く。

「角部屋ですか」
「住むなら角部屋がいいでしょー」
「まぁ夏とか日差しが二、三面から当たって逆に暑いですけど、物音とか息苦しさは無いですもんねぇ」

 私も角部屋の住人であるのでウンウンと頷く。
 絶対にないけれど、もし仮に、どこかに引っ越すならば、また角部屋を探すと思う。

 部屋の鍵を開けたまーさんは大きく扉を開いて、「入って待っててー」と言いながら奥へと突き進んだ。
 玄関の照明をつけてから廊下を突き進んだまーさんは、リビングであろう部屋へ姿をけす。すると、奥の部屋でパッと灯りがついた。

「お邪魔します」

 靴を脱ぐつもりはないが、玄関まででも、おじゃまします、だ。
 話し声が廊下に響いても悪いので、静かにドアを閉めて、待つ。

 ロッカーの上に飾られているディフュザーは、綺麗な瓶に造花が二輪。
 おしゃれだなぁと眺めていると、奥でゴソゴソと物音がする。

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 玄関から見える限りでは、リビングは綺麗に整えられていて、意外に質素だ。
 なんとなく、まーさんの家は整理整頓がされていないイメ―ジだったので、いい意味でイメージが崩れた。
 やっぱり大人の女性なのだ。どれだけ忙しくても、ちゃんと部屋は片づけてあって、突然でも人を呼べるレベルなのだろう。

「お待たせお待たせ」

 私の思考を遮って、リビングの奥から顔を見せた彼女は片手に薄ピンクの封筒と、もう片手には小瓶を握っていた。

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