隣恋Ⅲ~謎の小瓶~ 3話


※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ 謎の小瓶 3 ~

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 ほい、とまず手渡されたのは、薄ピンクの封筒だった。

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 ゲームじゃないのか。と思いながらとりあえず受け取って、説明を求めるよう彼女の顔を見返す。

「それは愛羽に渡してね。アンケートって言えば分かると思うから」

 仕事関係の物なのかな? 大切に扱わないと。
 頷く私に、まーさんは小瓶を差し出した。

「これも愛羽さんですか?」
「これはすずちゃんに」

 パッと見て、彼女が差し出している小瓶は、茶色くて、捻って開ける金色のフタがついていて、例えるなら栄養ドリンクとか、飲む風邪薬とかが入っているビンの容器に似ている。

「私に、ですか?」

 別にそんな疲れてないんだけど、車で送ったお礼に栄養ドリンクでもくれたのだろうか。
 内心首を傾げつつも、その小瓶を受け取った。

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 持った小瓶はやはり軽く、しかし手触りがざらりとする。
 何だ? とざらついた部分をひっくり返して見れば、そこにはラベルが貼ってあったのであろうと分かる。だが、そのラベルはまるで商品名や成分表示を見せたくないというように剥がされていて、上手く剥がれずに残った白い接着部分が、ざらりとした触感の正体だった。

「すずちゃんだけに、あげるから。愛羽には見つからないように」
「え?」
「それと、今度の金曜日から日曜日にかけて遊びに行った先で、飲むように」
「は?」
「そこ以外の場所では、飲まないように」

 な、なんだなんだなんだ。
 この制約付きの飲み物は、思わず小瓶を危険物を持つかのように指先で摘む。

「ああ違うわ」
「へ?」
「愛羽に、飲ませるんだ」
「はぁ?」

 さっきから、えとかはとかへとかはぁとかしか言えてないけれど、そのくらい理解に苦しんでいるのだ。
 だって、まーさんが口にする条件はなんだか突拍子もないものばかりで、怪し過ぎる。

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 ちょっとよく分からない事ばかりなんですけど、と前置きをして、まーさんを見上げた。その顔は、にやにやしていて、怪し過ぎる。

「これ、何ですか?」

 持ち上げた小瓶は、フタが開けられた形跡もなく、中身は液体。
 茶色い瓶なので、液体がどんな色をしているのかは分からない。

 だけど往々にして、薬品などが入った瓶は大体茶色をしている。その茶色の理由は、紫外線を遮るためであり、なぜ紫外線を遮るのかというと、劣化を防ぐためだ。

 私にはこれが、何かの薬品にしか見えない。

「明日、教えてあげる」
「……。今教えられない理由が?」
「だってドコ行くか、愛羽から聞いてないでしょ?」

 車の中で話していた。
 私と愛羽さん二人きりのときに、金曜から日曜にかけて遊びに行く場所の説明をすると。
 愛羽さんは車の中で説明してくれそうな気配だったのに、まーさんが「面白くないから」と言って説明を遮ったのだ。

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 うーん……ドコに行くのか知らされていない私にはコレの正体を教えられない、と。

「じゃあ、何でこれを愛羽さんに飲ませるんです? 私じゃなくて」

 私が飲んだら何か問題でもあるんですかと尋ねれば、まーさんは腕を組んで少し考える素振りを見せた。

「別にすずちゃんが飲んでもいいけど、まぁ半分こか、それか愛羽に多く飲ませた方がいいと思うよ」
「なんでです?」
「それはコレの名前を聞いたら、理由が分かるよ」

 にやぁと笑う彼女が、どうも怪しい。

「愛羽さんに見つかっちゃいけない理由も、名前を聞いたら分かるんですか?」
「分かると思うよ。賢いすずちゃんならね」

 いや賢いとか褒められたのかもしれないけど、今はこの小瓶の正体が全くもって見当もつかないので、自分が馬鹿にしか思えない。
 小瓶とまーさんの怪しげな笑顔を見比べて、気味悪さに眉を顰める。

「そぉんな顔しなさんなって。明日にはちゃんと教えてあげるから」
「……危険物じゃないんですよね? いきなり発火とか爆発とかしないですよね?」
「しないから。それ危険薬品とかじゃないし」
「…………。じゃあ頂いておきますけど……。ありがとうございます……」

 正体も分からないものを押し付けられただけなので、今は素直に喜べない。
 だが、物を頂いたのは確かなので頭をさげれば、まーさんはその頭をわしゃわしゃと撫でた。

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「今日はありがとね。助かったよ」
「あ、いえ、それは全然。いつもお世話になってるんで」

 ぼさぼさにされた頭もそのままに首を振ってみせると、それまでの怪しげな笑顔から一転して優しいお姉さんの顔で、まーさんは手を振った。

「愛羽のこと頼むね。かなり疲れてるだろうから」
「はい。それじゃあ、まーさんもゆっくり休んでください。おやすみなさい」
「おやすみー」

 廊下へ出て、お邪魔しました。とドアをゆっくり閉めれば、姿が見えなくなるまでまーさんは手を振ってくれていた。
 来た道を戻りながら、両手に持った物を観察するよう目線の高さまで持ち上げる。

 まぁ、このアンケートっていうのはいいとして。

 一体これは、なんなんだ……?

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