隣恋Ⅲ~過去 現在 未来。嫉妬~ 112話


※ 隣恋Ⅲ~過去 現在 未来。嫉妬~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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  ~ 過去現在未来。嫉妬 112 ~

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 写真を拡大してみたり、元のサイズにしてみたり。
 未だ熱心にそれを見つめる雀ちゃんは、難しそうな顔をして、顎に手をあてたりしている。

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 どこからともなく、胸に湧いた不安に、わたしはごくりと喉を鳴らした。

 雀ちゃんの様子を見る限り、カクテルを観察する真剣な眼差しに嘘はない。
 でも。

 ――ない……と思いたいだけなのかも、しれない……。

 妙にざわつき始めた胸中を抱えきれずに、わたしは口を開いた。

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「え……っと、迷惑じゃ、なかった……?」

 カクテルの写真を見つめたまま、思考の海に飛び込んでいた雀ちゃんは、わたしの言葉で我に返って、はっとこちらに目をむけた。
 そのあと、わたしの台詞の意味を理解したようで、キョトンとする。

「迷惑って、コレですか?」
「う、うん」

 カクテルの写真を示すため手に持った携帯電話を軽く振る雀ちゃんに頷くと、彼女は眉を吊り上げるようにして「まさか!」と語気を強めた。

「迷惑だなんてとんでもない。むしろ、助かってます」
「ほんと? 実は、自分のカクテルこんなふうに写真撮って欲しくなかったとか、思ってない?」

 何度も確認するわたしに、彼女は首を横にふる。

「本当に、感謝してるんですよ。この写真くださいって言おうと思ってるくらいには、これに感謝してます」

 自分の熱心さをおどけてみせる雀ちゃんは、目元を優しく緩めて、わたしの携帯電話を指先で撫でた。

 目に映ったその光景に、なんだか自分が撫でられたような気がして、トクンと跳ねた胸に若干動揺する。
 撫でたのは、ただの電子機器なのに。

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 わたしのそんな動揺を他所に、雀ちゃんは改めて、カクテルの写真に瞳を向けた。

「プースカフェをただ写真とるだけじゃなくて、ちゃんと真横から撮ってあって、層がどれだけ混ざっちゃってるがよく分かる。いい写真です」

 それに。と雀ちゃんは続けて言う。

「蓉子さんに指導してもらったとき、こんなふうに自分のカクテルをじっくり見れる時間なんてなかったんです。言われたことを次に活かせ、って感じの指導だから」

 眉尻をさげた雀ちゃんは軽く苦みの走った顔で笑う。

「あんまり頭が良くないんで、緊張とかで注意された内容がトンじゃったりとかするんです。だから、こういう写真があると、すごく助かります」

 改めて、ありがとうございます。
 と言い、腹ばいのまま、ぺこ、と頭を下げる雀ちゃん。

 彼女の言葉によって胸に広がってゆく安堵が、大きい。
 迷惑だなんてとんでもない、と言ってくれたことが、わたしにとってものすごく大きかったのだと実感した。

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「そっかぁ。よかった」

 自分でもすこし驚くくらい、ほっとした声をしている。
 客観的にそんなことを思いながら、わたしは携帯電話を受け取ろうと手を伸ばす。

「雀ちゃんのケータイに写真送っておくね」
「ありがとうございます」

 にこ、と微笑んだ彼女は、その直後眠たげに欠伸を漏らす。顔を伏せて欠伸顔を隠す彼女を横目に、受け取った端末を操作して、雀ちゃんの携帯電話に、カクテルの写真を転送した。

 目を擦る彼女の頭をぽんぽんと撫でる。

「寝よっか」
「はい」

 二人で仰向けになって、シングルのベッドで寄りそう。
 狭いと思うけれど、これがまたいい狭さでもある。

「大好きよ、雀ちゃん」
「私も愛羽さんが大好きですよ」

 愛の言葉を交わして、わたしたちは目を閉じた。

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