※ 隣恋Ⅲ~過去 現在 未来。嫉妬~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 過去現在未来。嫉妬 111 ~
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「あ」
思い出して、わたしは彼女を撫でる手を止めながら声をあげた。
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そうだったそうだった。
寝ちゃう前に思い出してよかった。
わたしは寝返りをうってうつ伏せになり、枕元で充電していた携帯電話を手にとった。
隣で雀ちゃんが不思議そうにわたしの突然の行動をみているが、その目の前に、一枚の写真を表示した携帯電話を差し出すと、彼女は驚きに目を丸くした。
「これ……」
「うん。今日のカクテル」
わたしから携帯電話を受け取った雀ちゃんは同じようにうつ伏せに寝返りをうった。
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両肘をベッドに着いて、食い入るように雀ちゃんが見ている写真は、今日彼女が作ってくれたプースカフェという名前のカクテル。
蓉子さんにダメ出しをくらっていた、それ。
「あの場で自分の仕事の出来を確認はできなさそうだったから、写真撮ってみたの」
と、わたしが言うと、それまで凝視していた画面から、こちらへ視線を動かした雀ちゃん。
その表情は、驚きに満ちていて、さっき、写真を見せた時よりも驚いている。
「愛羽さんまさか、私に見せる為だけに写真撮っておいてくれたんですか?」
「うん」
生憎、若い子のように可愛げのある性格ではないわたしは、これから食べるであろう食事風景を毎度のように写真に収めたり、SNSにアップしたりしない。
「愛羽さんが写真撮るだなんて、珍しいなって思ってたんですけど……」
目をまん丸くしてそう言葉を切った雀ちゃん。多分、その後には「あの写真撮影はそういう目的だったんですかぁ……」と言いたげな感じ。
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「そんなに驚くことかな?」
「そりゃあバーに来て写真撮る人の大半は自分の為ですもん」
まさか、私の為だったなんて。と続けた雀ちゃんは、やっと驚きを収めて、目元を緩めた。
「ありがとうございます」
「いいえ。どういたしまして」
微笑んで首をふってみせる。
写真一枚撮ることくらい、なんてことない。ちょうど、お店には人がいなかったし。
いつもどんなふうに蓉子さんに仕事を見てもらっているのかは知らないけれど、自分の師匠と、師匠の師匠と、恋人の前でカクテルを作る状況が、どれだけプレッシャーに耐えながらの仕事かは、想像できる。
多分、わたしの想像よりもはるかに、雀ちゃんにかかっていたプレッシャーは重いものだったと思うけれど、その状況で作るのは人生初めてだったのかもしれない。
そんな貴重なカクテルの出来を確認できないこと程、成長を逃すことはない。
仕事というのは、自己評価と反省、改善点を挙げるところまでしなければいけないから。
そして次に活かす。
それが、仕事だとわたしは思っている。
だからその手伝いをしたまでだ。
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そこまで考えて、ふと、湧いた不安。
こういうのを、おせっかい、と言うのではないだろうか、と。
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まだ熱心に写真を見つめる雀ちゃんの横顔は、真剣そのものだけど……。
内心、「いやこんな事されなくても自分のカクテルの出来くらい確認済みだし」とか、「こういう格好悪いところって正直恋人に見られたくないんだけど」とか考えていたら……どうしよう。
……どうしよう……。
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