※ 隣恋Ⅲ~過去 現在 未来。嫉妬~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 過去現在未来。嫉妬 25 ~
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隣を歩く彼女のヒールの音が、夜道に木霊する。
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ヒールがコンクリートを叩く音は、甲高く道に転がる。その音を耳にしながら、私は隣を歩く彼女に視線をちらとあてた。
若干、千鳥足…かな?
まぁ無理もないのではないかと思う。
だって、うちの店に来るまでに、蓉子さんと飲んできたのだろうから。
「そういえば、愛羽さん」
黄色い点字ブロックの上で、愛羽さんの足が一瞬ぐらついた。私が話を振ろうとしたせいで、足元への注意が薄れたのかもしれない。
慌てて愛羽さんの二の腕を掴んで転ばないように、足を挫かないように、軽く上へ引き上げる。
「へへ、ごめぇん」
転倒を免れた彼女は、私を見上げて酔っ払い特有のへらりとした笑い顔を見せる。
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蓉子さんやうちの店長が居た場では、しっかりしていたはずなのに、どうして帰り道になるとこんなにも酔っ払いの本領を発揮するのだろう。
せめて、家までしっかりしていてくれたら、転びそうになるとか危ない事は避けられるっていうのに……。
胸中で不平を漏らしつつも、愛羽さんに苦笑を返す。
「ほら、ちゃんと立って。歩いてください」
「おんぶは?」
「え?」
空耳か幻聴か聞き違いかと思うような単語が愛羽さんの口から飛び出して、私はぎょっとして彼女を見返した。
頭一つ分とはいわないが、まぁその半分くらいの身長差がある私達。
私に体重をかけて寄り掛かっている彼女がこちらを向いていると、やはり顔の距離は近いもので、バチリと目が合うと、より一層その距離がたいして開いていないことを痛感する。
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酔った人間の瞳は、潤み、蕩けた色をしている。
間近でそんな瞳を見下ろすのは、どうも、ベッドの上の情事を思い出す。
脳裏で、彼女の嬌声が再生されたくらいには、記憶がよみがえってくる。
「ねーぇ、おんぶ」
ごくんと生唾を飲み込む私を他所に、愛羽さんは無邪気にもおんぶを強請ってくる。
「駄目です」
記憶再生をなんとか遮り、鎮め、私は首を振った。
そんなスカート履いてちゃおんぶなんかできませんよ、と告げ、彼女の蕩けた瞳から逃げるように、家路を急いだ。
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まぁしかし、家路を急ごうにも、酔っ払いを連れていてはどうにもスピードは落ちる。
仕方なく、腕に掴まるように促して、愛羽さんの歩くペースに合わせる。
「ふふふん」
楽しそうに鼻歌なのかなんなのか、微妙な調子で小さな声を出してご機嫌そうな愛羽さん。
普段、こうして街を歩いていて、すれ違う人も居るのだから鼻歌を例え小さな声でも歌ったりはしない。だが、今日は随分と酔いも回って楽しいらしい。
鼻歌混じりに、笑みを浮かべる愛羽さん。
「随分、酔ってるんですね」
酔っ払いはまともな返答が返ってくることが少ない。
経験上そう踏んでいるから、歩く暇つぶしに愛羽さんに声をかけてみる。
「だって、さ」
ふふふ、とまた楽しそうに笑う愛羽さんは、私の腕の服をきゅっと握った。
「雀ちゃんとふたりきりなんだもん」
若干、呂律が怪しい。
酔いが先程よりも回っている様子だが、その原因は歩行だろう。
歩いたことで、血流が速くなってアルコールが体に滲み込みやすいのだ。
「雀ちゃんとふたりなら、安心するから」
掴まった腕に擦り寄ってくるこの人を、今すぐに抱き締めてしまいたいけれど、家までは我慢だ、と私は自分に言い聞かせた。
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