※ 隣恋Ⅲ~過去 現在 未来。嫉妬~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 過去現在未来。嫉妬 21 ~
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来店を知らせるドアベルが鳴った瞬間、店長と私はドアを開ける人物へと顔を向けた。
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「え?」
「は?」
私と、店長の疑問符のついた声は重なった。
だって、ドアを開けた人物はここのスタッフの一人である健介さんだったから。
彼が姿を見せた瞬間、たぶん、店長と私の頭には同じ疑問が浮かんだ。
「え?」
いつも通り出勤したはずなのに、なんで俺は不思議そうに見られてる訳?
そんな心の声が聞こえてきそうな表情で、私達を見比べる健介さん。
1秒か2秒、そのまま私たちは視線を交わしていたが、店長が健介さんに店の奥のスタッフルームへ行くように目で示すと、彼は首を傾げながら店奥の扉の向こうに姿を消した。
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「少し、失礼します」
店長はグラスを傾けている蓉子さんと愛羽さんに軽く頭を下げて、健介さんの後を追ってスタッフルームへと姿を消した。
パタンと扉が閉まると、コースターにグラスを戻した蓉子さんの目がこちらに向いた。
「健介がどうしたの?」
うーん、こういう身内話をしてもいいものかと悩むが、全くの部外者でもないし、いいか。
私は自分の顔を指差した。
「今日のシフト、22時までなんです。で、入れ替わりで健介さんが22時から入りだったはずなんですけど……」
ちら、と壁にある時計に目をやった蓉子さんが呆れたように鼻で笑った。
隣で話を聞いていた愛羽さんは、苦笑を零している。
「時間間違えるとか、馬鹿ねぇあのコ」
「まぁ誰にでもあることですから」
一応、フォローしてあげるけれど、蓉子さんは首を振ってピシャリと告げた。
「今回は遅れた訳じゃないからいいけれど、時間を間違えるのはよくないわね」
腕を組む蓉子さんの隣で、愛羽さんが渋い顔をしてうんうんと頷いている。
この社会人二人が意見をそろえているのだから、時間を間違えるというのはやはり、いけない事なんだろう。
でも、私としては、遅れた訳じゃないからいいとは思うんだけど……?
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そんな内心を抱いて首を傾げているところに、スタッフルームへと続く扉が開いて、店長が戻ってきた。
「雀、健介が呼んでるから行ってあげてくれる?」
「え? あ、はい」
私に用事?
蓉子さんと愛羽さんに断りを入れてから、カウンター内へ戻ってきた店長とすれ違ってスタッフルームへ入る。
一体なんの用事なんだろう?
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「悪い、安藤。間違えて早く来ちまった。1時間だけシフト譲ってくれねぇ?」
両手を顔の前で合わせて、すまなそうに眉尻を下げて、健介さんは頭をさげた。
あぁ、何の用事かと思えば、そういうことか。
健介さんは22時から入り。だけど、来たのは20時45分。
つまり彼は勘違いして、1時間早くに出勤してしまったのだ。
だけど、店にはスタッフが2人いれば十分。
だから私に、1時間早くあがってくれというお願いらしい。
彼の家はシャムから遠いから帰るわけにはいかないし、このスタッフルームで1時間暇を持て余すよりは私と交代した方がマシだと思ったのだろう。
「いいですよ」
内心、やった! これで愛羽さんと一緒に帰れるかも、という希望を見出して喜んでいるけれど、それはおくびにも出さず、”しかたないなぁ”なんて表情を作ってみせる。
「悪いな、安藤。今度なんか奢る」
「期待してます」
申し訳なさそうにする健介さんに軽口を返して、彼の着替えを眺める趣味もない私は、店へと引き返した。
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「おかえり」
カウンターへ戻ると、店長の”で? どうすることになったの?”という目に迎えられた。
「健介さんと代わります」
特に大したことでもないのでサラリと答えると、そこに居合わせた大人3人が、苦笑やら溜め息やらを繰り広げるので、こちらの方が狼狽えた。
「なんでそんな反応なんです?」
え? え? え? とそれぞれの顔を順番に見るけれど、店長は苦笑するばかり。
「愛羽、ちゃんと育てなきゃ駄目よ?」
「雀ちゃんの将来がかかっているものね」
と謎の会話をする蓉子さんと愛羽さん。
……うーん、大人って分からない。
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