隣恋Ⅲ~過去 現在 未来。嫉妬~ 20話


※ 隣恋Ⅲ~過去 現在 未来。嫉妬~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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  ~ 過去現在未来。嫉妬 20 ~

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 鋭い視線が、向けられる。

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 小気味よいシェイク音がバーに響く。
 私のシェイクよりもわずかに速い店長のシェイク。
 彼女が本気を出せば、あのくらいの速さで振れるのだ。普段、いかに手を抜いているかが如実に現れている。

 店長の手抜きシェイクを常々見ている私は、それを目標に真似る。だから、彼女の本気のシェイクに、ついてゆけない。

 隣と比べて見劣りするシェイク。
 恥を塗り込むように、私は銀色のそれを振り続けた。

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「怜、もう少し角度斜め。そう、上は高過ぎ」

 蓉子さんの凛とした声が、店長のシェイクの補正点を告げる。

「雀、速度あげる為に肩に力入り過ぎ。脇締めて」

 う……。
 言われた通りに両腕を体に添わせるようにしてシェイクを続ける。が、蓉子さんの口は止まらない。

「違う。脇を締めるっていうのは、肩と背中の力を抜くの。腕をくっつけたら余計力むから。必要最低限の力だけで動けばもっと速く触れる。怜のスピードに追い付こうとしなくていいから」

 む、う……。
 全部、見抜かれている。

 ああもう格好悪いったらない。こんな格好を愛羽さんに見せたくはないけれど、蓉子さんからこうして指導をしてもらえる機会は少ない。だからたくさん指導は受けたい。

 ……でもこうしてダメ出しばかりされている情けない恰好は、恋人に見られたくない。

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「怜、持久力なさすぎ。速度戻して」

 そもそも、長時間シェイクを続けることなんか、まず、ない。
 立て続けにオーダーが入ったからといっても、1杯作って、僅かの間を置いて、また作る。
 シェイクを3分4分と続けることなどないのに、蓉子さんは容赦ない。

 店長よりは若いからなのか、シェイクの速度が元々遅いからなのか。私は速度強化指導はないけれど、その後も、フォーム修正を何度もされて、OKが出たのは多分、5分以上経ってからだった。

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「まったく。少し見ないうちに自己流を入れるんだから、このコたちは」

 やれやれと肩を竦める蓉子さんだが、私と店長はそれどころではない。
 二の腕がパンパンだ。私はこれから22時まで勤務があるし、店長はラストまで勤務がある。

 今、グラスホッパーをオーダーされたら、物凄く、困る。

 このガクガクの腕では、長く強くシェイクをしなければ作れないグラスホッパーは針山を素足で歩くようなものだった。

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「蓉子さん、定期的に指導しに来てるの?」

 プースカフェをチビチビと飲んでいた愛羽さんが首を傾げると、隣で彼女が「もちろん。弟子と孫弟子を野放しにしたら私の名に傷がつくわ」と、微笑む。

「私は一度拾ったものは捨てないの」

 自分の名の為、みたいなコトを言っておいて、そんな殺し文句吐くのだから蓉子さんも隅に置けない。
 店長を横目で見れば、珍しく、狼狽えたみたいに、照れて頬を指先でかいている。
 恋人の遥さんにしか見せ無さそうな表情を盗み見てしまって、なんとなく沸いた罪悪感に目を逸らし、ジンジンと鈍い痛みと怠さを訴える二の腕を揉み解した。

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「もちろん、愛羽のことだって面倒みてあげるから拗ねないのよ?」

 よしよし、と愛羽さんの髪を撫でるのは蓉子さんの手。
 その手は羨ましいほどに指が長くて綺麗だ。……けれども。

「別に拗ねてないから」

 と言いつつも手を跳ね除けず、好きなように撫でさせている愛羽さんのまんざらでもなさそうな表情をみると……腹の底がジリと熱くなる。

 愛羽さんの髪に触れていいのは、自分だけだと、独占欲がどこか遠くで叫んでいる。
 その叫びは聞こえなかったフリをして、愛羽さん達から視線を逸らしてシェイカーを片付ける。

 この二人が、一体どういう関係なのか今すぐにでも問い質したいけれど、……聞くのがコワイ。
 もしも、もしもだ。

 元恋人だ、なんて言われたら、私はもう自分にまったく自信が持てなくなってしまいそうだ。

 だって、こんなにも全てが完璧だと言わんばかりの蓉子さんと以前付き合っていたなら……私なんか見劣りして、落胆ばかりを味合わせてしまっていると思うから。

 蓉子さんは出来たのに、雀ちゃんはなんでこんなことも出来ないの、とか思われてたりするんだろうか……。
 そんなネガティブな考えに思考回路が支配されそうになった瞬間、カランカランとシャムのドアベルが鳴り響いた。

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