※ 隣恋Ⅲ~過去 現在 未来。嫉妬~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 過去現在未来。嫉妬 19 ~
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バーカウンターの内側は、お客様から見えない程度に低い位置に様々なものが設置してある。
例えば私が今シェイカーなどを洗浄した洗い場や、その下には小さな冷蔵庫。ここにはフルーツなど冷やしておくべきものが入っている。そしてその隣には、グラス専用の冷蔵庫。
所狭しと並んでいるこれらは、私達バーテンダーには欠かせない、なくてはならない相棒たちだ。
その最たる相棒は、今し方洗浄したシェイカーなのだが。
水切り場に伏せたシェイカーにチラと視線を流してから、前屈みだった姿勢を正す。
基本的にバーテンダーがカウンター内に立った時、視線の位置はお客様の頭の少し上。
だからお客様が椅子に座られたとき、我々を見上げる形になる。
まぁ…軽く顎をあげるくらいなものだけど、それが思わぬ効果を発揮するのだと知ったのは、愛羽さんに見上げられるようになってからだった。
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いつからこちらを眺めていたのだろうか。
プース・カフェのグラスを傾けていた彼女と、視線が絡む。
どことなく頬が上気しているが、もう酔っているのか?
もしかすると、蓉子さんと連れ立って来店したという事は、愛羽さんは蓉子さんのバーに寄ってきたとか?
あ、いやでも蓉子さんは見た所私服っぽいし、今日はまだ出勤されてないのかな?
数秒間、考え込みつつ愛羽さんと見つめ合っていると、やはり飛んでくる野次。
「なに? いつもこうしていちゃついてるの? このコたち」
「基本的に雀は彼女が居るとデレデレしてますね」
オールド・ファッションド・グラスを傾けつつ、私と愛羽さんを見比べる蓉子さんは、呆れたように首を横に振った。
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「基本的にデレデレなんてしてないですよ」
「どうだかねぇ」
揶揄う目をした店長が肩を竦めるけれど、蓉子さんが居るからなのか、普段よりも揶揄ってくる加減が緩い。
やはり師匠の前だとお行儀がいいらしい。
「愛羽はいちゃついてる自覚あるの?」
「んー、まぁ、あるかな」
だって雀ちゃんの仕事してる姿好きだし。
と、照れる様子もなく付け加える愛羽さんに、赤面する。
だ、な、なんで、そんな事を店長や蓉子さんの前で今言うのか。家で言ってくれればこう…抱き締めたり、キスしたりできるのに。
「ね?」
なんて軽く片目を閉じてこちらに視線を流してくる愛羽さん。
何故だか今日は積極的だ。
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「やめなさい。雀が鼻血出すわよ」
「出しませんから……!」
傍から見てそんなにも顔が赤くなっていたのだろうか。
肘で愛羽さんを小突く蓉子さんは、喉の奥でくつくつと笑った。
グラスの中でフォアローゼスに浸かる氷がカラリと音を立てて、ちらとグラスの中に視線を落とした蓉子さんは、思い出したようにこちらに視線を投げて寄越した。
「ちょっとシェイカー振ってみなさい」
蓉子さんの言葉に、私と店長は一瞬、動きが止まった。
彼女の言葉がどちらに向けられたものか、把握できなかったからだ。
「二人ともよ」
蓉子さんからしたら、私も店長も、同じ教え子に違いないようで、呆れたように交互に人差し指を向けられた。
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シェイカーの中身の指定はなかったし、蓉子さんも愛羽さんも手元の杯はまだ空きそうにない。
店長と私は、氷と水をシェイカーに入れると、それを構えた。
愛羽さんはこれから何が起こるのだろうかと首を傾げている。
まぁそりゃあそうだ。
ただの水をシェイクして何になるのかと疑問を抱いて当然だ。
しかし彼女に説明をしている暇はない。
自分の渾身の出来の、シェイクを蓉子さんに見せなければならないから。
これは、シェイカーを振る姿の定期検査だから。
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