※ 隣恋Ⅲ~過去 現在 未来。嫉妬~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 過去現在未来。嫉妬 18 ~
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「ね。飲んでもいい?」
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なんとも言えない光景だっただろう。
お客が座る席にいる人物に、その店のバーテンダー二人が指導を受け、頭を下げている光景。
今この店に居る4人のうち3人はバーテンダーで、残る1人の愛羽さんが、口を開いた。
隣に座る蓉子さんに、目の前にあるプース・カフェを手にとってもいいかと尋ねる。
私達の指導の間、待たせてしまったことを申し訳なく思うと同時に、場の空気を変えるようなその台詞と声の明るさに、心底助かったと安堵の息をつきたい気分だ。
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「ええ。おまたせ。どうぞ」
プースカフェグラスを勧めるように、ひら、と手の平をみせる蓉子さんからは既に厳しい顔付きは消えている。
許可をもらって愛羽さんは嬉しそうにグラスへ手を伸ばしかけ、気が付いたみたいにスーツのポケットから携帯電話を取り出した。
「写真写真」
「……あなた年甲斐もなくそんな若いコみたいな真似してるの?」
層になっているカクテルが珍しかったのだろうか。
その写真を撮ろうとする愛羽さんを、蓉子さんが片眉をあげて気の毒そうに眺めた。
まぁ…女子高生や女子大生が食べ物の写真を撮るのはよくあることだけど、社会人の愛羽さんだってそういう事してもいいんじゃないかと思うケド……?
「だって綺麗で珍しいお酒なんだもん。あと、お客さん他に居ないし。さすがに他の人が居るときはしないわよ?」
あぁ確かに。私の記憶が確かならば、愛羽さんがこのバーでカクテルの写真を撮っているのは初めて目にするかもしれない。
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ふぅん? と疑わしげに視線を送る蓉子さんを尻目に、愛羽さんはじっくりと撮影角度を決めて、椅子に腰掛けたまま軽く背を反らしながらもグラスの真正面から1枚、撮影する。
バーに釣り合わないカシャリ、という機械音が響いた。
写真の出来を確認しているその姿を見て、可愛いなぁと癒されるけれど、先程蓉子さんに指導を受けてメンタルを削られて、いつもみたいにほっこり出来ない。
「怜、フォアローゼスちょうだい」
「はい」
ロックグラスとボトルを手にとった店長を横目に、私は先程のカクテル二杯を作った道具の洗浄作業に移った。
しかしここでも気が抜けない。
バーとは基本的に静かな場所であって、大きな音を立てるだなんて論外だ。
それは水音なども含まれていて、たとえカクテルを作ったあとの片付けであってもジャージャービチャビチャ音を立ててはいけない。
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静かに。静かに。
心の中で唱え続けながら、道具たちを洗浄していく。
まぁ、油を使って料理をしている訳じゃなくて、ただ液体であるお酒に触れただけのものだからそんな熱心に落とさなければいけない汚れはない。
だからといって油断しているとどこかに洗い残しが出たりする。
そうなると、次のカクテルを作るときに洗い残した前のお酒の味が混じって、美味しくないものが出来上がる。
店長から昔聞いた話で、おじさんバーテンダーがやっているバーに行ったら、その日が忙しかったせいなのか、普段からそうなのかは知らないが、メジャーカップを洗いもせずにどんどんカクテルを作っていて、クソまずい酒を飲まされた、と聞いたことがある。
その話を聞いてから、メジャーカップに残ったお酒なんて微量なんだから、次のカクテル材料で味が紛れて分からないんじゃないか、という考えは無くなった。
蓉子さんの名言でもある『カクテルを作るなら繊細な指を持て』という言葉を胸に思いつつ、私は洗浄を終えた道具たちをゆっくりと水切り場に伏せた。
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