※ 隣恋Ⅲ~過去 現在 未来。嫉妬~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 過去現在未来。嫉妬 16 ~
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意地悪されて悔しいけれど、嫌いになれない。むしろ好き。
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そんな表情をする愛羽さんを初めて見た気がした。
まーさんも意地悪したりする人だけど、まーさん相手にこんな表情をしない。
自分の知らなかった恋人の表情を引き出す人が、以前からの知人だった。
正直、それがショック……というか悔しかった。もっと言えば、嫉妬した。
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でも、ショックや嫉妬だけじゃなくて、愛羽さんのそんなカオが見れて、嬉しいとか可愛いとか、そういう感情も湧いてくる。
負の感情と、それとは逆の感情――あえて言うならば正の感情が、せめぎ合って、混ざり合って、心臓の奥がカッと熱くなった。
「雀」
名前を呼ぶその中性的な声に、我に返る。
慌てて蓉子さんに顔を向ければ、彼……いや彼女は、ニンマリと目で弧を描いて、頬杖を外した。
「嫉妬?」
「ぁ、や、その、ごめんなさい蓉子さん」
反射的に謝る。
だって、そんな目を向けられたら、なんだか蛇に睨まれた蛙になった気分になるんだもん。
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「謝ることはないわ。私からしてみれば、羨ましいくらい素直な感情だもの」
恋人を作らない蓉子さんには、嫉妬という感情がないのだろうか……?
彼女が羨ましいという単語を口にするのは珍しく思う。だって、欲しいものは大概、手に入れている人だから。
「それに。私にそんなふうに感情をぶつけてきたのは初めてじゃないかしら? やっぱり恋人で色々変わる所は変わるのねぇ? 愛羽」
そ、そんなにさっき牙剥いたかな。一瞬だけ、ほんの一瞬だけ「あ」と思っただけなんだけど…。
意味有り気な視線を隣に居る愛羽さんに投げかける蓉子さん。
口をへの字にする愛羽さんは、小さく「るさい」と言った気がした。
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「さて。ずっとこうしておしゃべりしているのもいいけれど、バーに来たからにはお酒を頂かなくちゃね?」
きた。
ピク、と店長の腕が震えたのを視界の端でとらえる。
もちろん、私は全身に震えが走った。
査定の時が来たのだから。
「何か飲みたいものはある?」
聞かれた愛羽さんは「んー? とくには」と首を横にふる。
ああああ……ここで私の得意のカクテルを言ってもらえたら……っ。なんて気持ちを抱いているだなんて、愛羽さんには全く伝わっていないだろう。
その隣の審査員の大先生には、私の気持ちがヒシヒシと伝わってしまったみたいだけど。
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「そうおびえなくてもいいじゃないの」
喉の奥で笑った蓉子さんは「そうねぇ」と軽く腕を組んで、右手の指先を顎に当てる。
しなやかな腕の動きと、女性らしい仕草に、このひとが男だということを忘れてしまいそうになる。
ちろ、と試すように私を舐めた視線が、店長へと移る。
「怜はマティーニ。雀はメロン・プース・カフェ」
よし、あれなら3種類だから大丈夫だ。
内心、ほっと息を吐いた。
「じゃなくて、プース・カフェにしましょうか」
ショックで膝から落ちそうになった。
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メロン・プース・カフェは、グレナデンシロップ、メロンリキュール、キルシュワッサーをグラスへ順に注いで作るプース・カフェスタイルのカクテル。
材料ごとに違う比重を利用して、グラスの中に美しい層を作り、見た目と変わりゆく味で楽しむお酒だ。
そして、最終的に私が注文を受けたプース・カフェは、グレナデンシロップ、クレーム・ド・ミント(グリーン)、クレーム・ド・ミント(ホワイト)、ブルー・キュラソー、シャルトリューズ(イエロー)、ブランデー、この6種類の材料でグラスの中に層を作るカクテルだ。
――……どうして人の心の中まで覗けるんだ蓉子さんは……。
多分、あれなんだろうな。
苦手とするプース・カフェスタイルのカクテルだけど、3種類の材料程度なら大丈夫。そういう考えが顔に出てしまったのだろう。
自分としては、あんまり表情を動かさなかったんだけど……どうしてだか、彼女にはいつも、見抜かれてしまうんだよなぁ。
「……」
眉尻を下げて、私はプースカフェグラスを手に取った。
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