※ 隣恋Ⅲ~過去 現在 未来。嫉妬~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 過去現在未来。嫉妬 14 ~
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―― 雀の場合 ――
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時刻は午後8時。
大通りからすこし外れた場所にあるこの店シャムは、夕方5時から開く駅前の飲み屋などとは違って、この時間からオープンするけれど、お客さんが入ってくるのは9時近くになってからだ。
まぁ大概の人は、食事をすませて、ゆっくりお酒を飲むために2軒目の店として、このバーを訪れる。
だからこの店の扉が開くのは、バーが開店してから1時間程経ってからの事が多い。
しかし今日は、開店後数分で、シャムの扉の内側にかけられたドアベルが来訪者を知らせてくれた。
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グラスを磨いていた店長と、おしぼりを補充していた私は多分、ドアベルの音で同時に、視線をそちらへやった。
滑らかに開いたドアから姿を見せたのは、嬉しいことに、私の恋人である愛羽さんだった。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ」
今日はここに来るとは言ってなかったのに、足を運んでくれたようだ。
しかも開店とほぼ同時だなんて、まるで私に早く会いたくて来てくれたみたいで顔がほころぶ。
私と店長の声が届くと愛羽さんは店長にぺこと頭を軽く下げたあと、こちらに小さく手を振ってくれた。
やばい。かわいい。
店長に向ける表情と、私に向ける表情が違う愛羽さんに、なにかこうムズ痒くなるようなときめきを胸に覚える。
カウンター席に着いてくれるかな、やっぱり端の席が好みなんだろうな、と店の奥のカウンター席へ視線を動かしかけた時。
カラン。とドアベルがまた鳴った。
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愛羽さんが開けたドアが閉まらず更に鳴ったという事は、もう一人お客様がいらしたのだ。
彼女はたまに仕事関係の人とここを訪れて、いわゆる接待というのをして帰っていくことがあるので、もしかすると、今回もそれかもしれない。
手を振ってくれたからてっきりプライベートで遊びに来てくれたのだと判断してしまったけれど、違ったみたいだ。
自らの早とちりを内心反省しつつ、愛羽さんの後ろから姿を現した人物に視線をあてる。
しかし私は、まさかその人が現れるとは予想も出来ない顔を見て、キョトンと目を丸くして固まった。
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「ゲ」
隣から、凄く嫌そうな声があがる。
店長さすがにそれは怒られますよ、窘めたいけれど、そんな行動をするのも憚られる。
店長の師匠の前ではとことんお行儀良くしなくては、すぐに指導が入ってしまうのだから。
ザ・綺麗なお姉様。そんな表現がぴったりな私服に身を包んで、その顔には意地悪そうな、楽しそうな笑顔を浮かべているあの人は、名を青木陽介さんと言って、女性の服を着ているものの、男性だ。
戸籍上は青木陽介という名前らしいけれど、自分では蓉子と名乗っていて、そう呼ばないと、滅茶苦茶怒られる。
女性の服を着るのが好きなようで、俗に言う女装家に分類されるのだろう。だけど、性の対象は男女問わずで、恋人も作らない。
私から見ると、非常に自由な生き方を満喫しているなぁとある種の憧れを抱きたくなる人物だった。
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憧れる、という点で最も尊敬の念を抱くのはやはり、バーテンダーとしてのスキルや知識の多さ。
店長の師匠ということで、私もごく稀に指導してもらうのだけど、尋常じゃないくらい厳しい。でも、指摘された事は反論の余地もないくらい正しい事で、それを完璧にマスターすれば、現在の自分よりも格段にレベルアップできる。
ただ……指導を受けるとフルタイムでバイトに入った時よりも疲れるんだけど。
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しかし、だ。
どうして蓉子さんと、愛羽さんが一緒に?
愛羽さんが店長と蓉子さんの顔を見比べて、頭の上にクエスチョンマークを浮かべているところをみると、愛羽さんと蓉子さんは知り合いみたいだ。
仕事の関係で知り合ったのかな…?
いやでも蓉子さんはバーのマスターだし、取引先の人って感じじゃないよなぁ……?
私も頭の上にクエスチョンマークを浮かべてみる。
たぶん、この場で、何もかもを把握しているのは、蓉子さんただ一人だ。
周囲の人間がチンプンカンプンなのを眺めて愉しんでいるみたいで、さっきからその綺麗な顔に浮かべる表情が半端なく意地悪。
そういう性格だから、うちの店長が「ゲ」とか言っちゃうんだけどね。
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