※ 隣恋Ⅲ~過去 現在 未来。嫉妬~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 過去現在未来。嫉妬 13 ~
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わたしの後ろに立つ人物は、まるで、”意地悪”を絵に描いたような表情で、シャムのマスターである井出野さんを見つめていた。
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「座りましょう? 愛羽」
「え、あ、うん」
肩越しに振り返って蓉子さんと井出野さんを見比べていたわたしの背中を軽く押して、カウンター席を勧める蓉子さん。
それはもう勝手知ったる、という雰囲気で、彼女は井出野さんが立つ真正面の席の椅子を引いた。
その隣の椅子に着くわたしの耳に、井出野さんの唸り声が届く。
「すーちゃん、呼んだの?」
「いいえ?」
ただならぬ仲とはいえ、仮にもお客の前で店員二人が、声を潜める訳でもなく相談というか確認というか、そんな会話をしている。
いいのだろうか、と蓉子さんを盗み見れば、これ以上楽しいことはないという表情で、喉の奥で笑っている。
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フーッ、と鼻から息を吐いた井出野さんは、腹を括ったのだろう。
それまで嫌そうな表情を隠しもしなかった顔を、いつもの凛としたものに変えて、蓉子さんではなくわたしに視線を送って寄越した。
「まさか、アナタがアタシの師匠と知り合いだっただなんてね」
肩を竦めながらの台詞に、わたしは目が飛び出るんじゃないかと思うくらい驚いて、絶句した。
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ええええ!?
と声を張り上げたいところではあったけれど、口に手をあててなんとかその声を堪えた。
隣では、もう堪らないといったふうに盛大に吹き出している人物が居て、わたしはその人の策にはめられたのだと今、気が付いた。
「蓉子さん! どうして知ってて言わなかったのっ?」
「だって聞かれなかったんだもの」
確信犯だ。
意地悪な返答にむっとしてその肩を小突くと、カウンターの向こうの二人の顔が驚きに歪んだ。
とっさに声はあげなかったものの、「なんてことしてるんだ」みたいな事を思っていそうな表情だった。
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「愛羽にバーテンの彼女が出来たって聞いた頃は、どこの店のどの子かしらって思っていたんだけれど、まさか、怜の所の雀だっただなんてね。言っておくけれど、確信したのはさっき信号待ちしてた時よ?」
蓉子さんはカウンターに頬杖をついて、井出野さんと雀ちゃんを見比べる。
その言葉に雀ちゃんが照れたようにはにかみつつ、おしぼりを彼女に差し出した。
「……確信したのはさっきでも、見当ついていたのはいつ?」
蓉子さんの言葉に惑わされてはいけない。
知ったのはついさっきよ、みたいなコト言われても、多分、彼女はそこそこ前の段階から、わたしと雀ちゃんの関係に勘付いていたはずだ。
でなければ、あの信号待ちで「あなたの恋人って鳥みたいな名前だったかしら?」なんて質問は出てこない。
ジトリと蓉子さんを横目でにらむわたしに、おしぼりを差し出す雀ちゃん。その顔はなんだかアワアワしているのを必死に隠そうとしていて可愛い。
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「内緒」
「……絶対相当前でしょ」
「フフフ」
秘密にするってことは、答えられない程前から、見当を付けていたってことだ。
以前から知っている雀ちゃんの顔を思い浮かべながら、わたしの恋愛相談なんかを受けていたんだ、この蓉子さんは。
ああもう、雀ちゃんを知らない人だからいいかと思って相談した内容もあったのに、恥ずかしくて仕方ない。
ていうか、雀ちゃんにも申し訳ない。夜の事情も若干喋ってしまっているし、性癖的な事もバラしてしまった。
あとで正直に話して謝ろう。
「ほんと、いじわるなんだから」
「ほら、すきなコほどいじめたくなるっていうじゃない?」
「それすると好きなコから嫌われやすいって知ってる?」
「愛羽は私を嫌いになれないもの」
自信たっぷりにそう言われて、言い返す言葉が見つからないし、確かに、蓉子さんを嫌いになる日なんてこないだろうなと納得してしまう自分が悔しい。
だけど、やっぱりこんなふうに余裕綽々に、揶揄いながらでも優しい目をして微笑んでくれる蓉子さんが、わたしは好きだ。
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