※ 隣恋Ⅲ~過去 現在 未来。嫉妬~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 過去現在未来。嫉妬 12 ~
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「と……?」
蓉子さんの質問の意味が突然すぎて理解できずに、きょとんとその顔を見上げて、数拍の後、やっと納得が追い付いてくる。
「ええ。鳥そのままの名前」
雀、だからね。
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確かに普段は気にせずその名前を呼んでいるけれど、彼女の名前は珍しいかもしれない。
……いや、自分の名前も相当珍しいだろうから、ひとのことは言えないんだけど。
わたしの返答を耳に入れてから、蓉子さんが軽く口角をあげて、前を向く。
その横顔を眺めつつ、こちらも信号へ向き直りかけて、ふと、気が付く違和感。
――わたし、蓉子さんに雀ちゃんの名前教えたかしら…?
いつも普段は、”わたしの彼女が”とかしか言わないはず。何かの拍子で、彼女の名前を告げたことがあったのかもしれない。
「愛羽、青。行くわよ」
蓉子さんに手を引かれ、進めの色に変わった信号を渡りはじめる。
胸に沸いた違和感と疑問の答えは、バーに行けば解決する。
どこか機嫌が良い雰囲気の蓉子さんをチラと見上げて、わたしは信号を渡り切った。
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「ちょうどいい時間になったわね」
蓉子さんの言葉に、手首を返して腕時計をみれば、その通り。
8時3分。
まるで、開店を待っていたかのようなタイミングで行くのはすこし、気恥ずかしいようなむずかゆさがあるけれど。
今日は一人ではないから心強い。
大きな通りからすこし外れた場所に、シャムはある。
すこしだけ重たそうな扉は見かけだけで、その取っ手を引くのに、あまり力はいらない。
まるで、この場所に来たい人ならば、どんな人でもいらっしゃい。そんなふうに言われているような気がして、ここの扉を開けるのは好き。
まぁ…この向こうに雀ちゃんが居るからっていうのも、ここを好きな理由のひとつではあるんだけど。
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見慣れたその扉。
手を伸ばして引くと、ドアベルが音を立てる。
わたしが開けたドアを引き継ぐように、後ろに続く蓉子さんが扉に手を当てた。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ」
ふたつの声が重なるようにして、わたしたちを迎えてくれる。
若干の時間差。初めは、雀ちゃんの元気な声。次に、店長である井出野さんの落ち着いた声。
お店の中をざっと見渡したらまだ誰もお客さんが来ていなくて、ちょっと優越感。
貸し切り状態なのをいいことに、井出野さんに会釈をしてから雀ちゃんに手を振った。
いつも通り、わたしの顔を確認した雀ちゃんの顔は、パァッと明るくなる。
この瞬間がいつも可愛いなぁと仕事で疲れた心と体が癒されるんだけど、今日はそのあとすぐに、雀ちゃんの顔がキョトンとしたそれに変わった。
それもそうか。わたしの後ろには蓉子さんが居て、取引先の人って感じの服装ではない人物を連れてきたのは、初めてだから「その人はだれ?」といった感じで驚いたのかもしれない。
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「ゲ」
パタン。と扉が閉まってドアベルが鳴り終えると同時だった。
井出野さんが、カエルのような声をあげた。
それはそれは、心底嫌そうな声で。
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仮にもこのバーのマスターともあろう人が、そんな声をあげてもいいのだろうか。
そんな常識的に井出野さんを諫める考えはまず浮かばず、わたしは訳も分からないままにカウンターの中でグラスを磨いていた井出野さんに視線をあてた。
まるで、漫画の世界から出てきたような「ゲ」という表情で、わたしの背後に立つ蓉子さんを見つめる彼女が、どうも、蓉子さんとただならぬ仲だというのは、一瞬で理解した。
けれど、一体どんな仲か。
恋人? いやいや井出野さんには今現在、確か、看護師の彼女さんが居ると聞いたことがある。
では元恋人? その線はあるかもしれない。けれど、二人の雰囲気はどことなく似ているから、自分と似た人と付き合いたい願望はあまり湧かないかもしれない。
じゃあ恋人という線を外れて、恋敵というのはアリかもしれない。
二人が似た雰囲気だから、好きになる人が同じ人。ああそれはアリかも、大アリかも。
突然の展開にわたしは脳内で、ドラマか漫画かにありそうなストーリー展開をさせつつ、後ろを振り返る。
そこに立つ人物の悪そうな表情といったらなかった。
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