※ 隣恋Ⅲ~過去 現在 未来。嫉妬~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 過去現在未来。嫉妬 11 ~
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私服だったとしても、綺麗系のそれを身に纏い、ヒールを履いて隣を歩くこの人は、男。
こうさらりと頭を撫でられてもいい存在ではないような気もするのだけれど、抵抗とか嫌悪とかそんな類の考えが浮かばないほど、自然に触れられてしまう。
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……よくないことなんだろうけど……。
大きい手だけれど、しなやかな指に髪を梳きながら離れていかれて、少々胸に沸く寂しさ。
たぶんわたしが、恋人がいなくて年上好きの人種ならば今の一瞬でコロッといってしまったと思う。
長年の付き合いがあるとはいえ、そのくらい、蓉子さんは人の心に入り込んでくるのがうまい。
彼女から吸収できる技術や話術は出来るだけ、会得しておきたいのだけれど、こんなふうにスルっと相手の心に入り込んでボディタッチまで出来るのはたぶん、蓉子さんだからだ。
彼女のもつ元来の性格や性質、会話の間、手を伸ばすタイミング。その全てがうまく重なって、出来上がった特技だ。
……そうでも思わないと、やってられない。
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「悔しい気持ちが顔に出ているわよ?」
くすくすと笑う蓉子さんに頬をつつかれるけれど、ここは道の往来。そんなカオなんてしてない。
せいぜい片眉が僅かに寄ったくらいなのに、簡単に人の心を読み取らないで欲しい。
「まだまだヒヨッ子からひよこくらいになった程度なんだから、精進しなさい」
「蓉子さんが会社の先輩として居てくれたらもっと頑張れるのに」
彼女のバーに行くと、つい、いつもそう思ってしまう。
仕事の場で、蓉子さんの会話術をもってすれば、どれだけの契約がとれるのだろうか、とか。それを後ろで見ていて、自分の糧にしたい、とか。
「真紀が居るじゃないの。あなたの会社には」
言われると思った。
確かに、まーは居るけれど、まーと蓉子さんの会話の進め方は違う。
だからこそ、いつも、蓉子さんが先輩で居て欲しかったとおもっているのに。
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「まーも居るけれど、蓉子さんも欲しい」
唇を尖らせてみせると、不意を突かれた顔をした蓉子さんが、一拍の後、吹き出した。
ひとしきり笑って、目尻の涙を小指で拭う。
「欲張りだけど、素直でいいわ。愛羽のそういう所すきよ?」
こういう色気のあるひとが、小指で涙を拭うと更に色気が増す。その仕草をしておいて、「すき」とか言っちゃう辺りが、あざといなぁ。
これで落ちない一般人はいないでしょうに。
わたしは蓉子さんを見上げたまま、内心溜め息をついた。
そんなわたしの胸中を見抜いているかのように、彼女が細めた目の奥で笑う。
「会話しているようで、頭の中で色々考えている所も、すき」
綺麗に整えられた爪の先で、ぷに、と頬を突き刺された。
まったく本当に、何もかも、お見通しなんだから、下手なことは考えられない。
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右頬を指先で何度もぷーにぷーにと押されながら、わたしは鞄を肩にかけ直す。
「敵わないなぁ、蓉子さんには」
「ふふ」
頬の感触を堪能し終えたのか、蓉子さんが手を引いた。
その目はいつまでも笑っていて、若干居心地がわるい。
いつか、この人を越えてみせるという野望を見抜かれているみたいで。
「ときに、愛羽?」
「ん?」
信号で立ち止まって、わたしは彼女を見上げて首を傾げた。
”ときに”なんて時代劇みたいな言葉を、現代で遣う人を初めてみたけれど、蓉子さんが口にすると似合う。
その手に扇子か、煙管でも持たせてあげたくなる心境だ。
「あなたの恋人って鳥みたいな名前だったかしら?」
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