※ 隣恋Ⅲ~過去 現在 未来。嫉妬~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 過去現在未来。嫉妬 10 ~
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「気を付けていってらっしゃい。早めに帰ってきてくださいね?」
「ええ。出来るだけ」
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まだ早い時間帯だからか、お客が店内にいないのをいいことに、由香理さんに店の外まで見送りをしてもらうのは、この店の店主とわたし。
内心、溜め息だ。
会話だけ聞いていればまるで夫婦のようなそれなのに、片方は店を放り出してお客の恋人を見に行く。片方はその意中の人が恋人を作らない主義というのを知った上での片想い中。
世の中、理不尽すぎる。
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小さく手を振ってわたし達を見送ってくれた由香理さんと別れて、マスターはわたしを見下ろした。
お店の中で椅子に腰掛けていると彼女の身長は特に目立たないが、こうして並んで立つと、ヒールを履いているし、かなり、目立つ。
はっきり何センチあると尋ねたことはないけれど、この目線の高さの違いは、たぶん、雀ちゃんよりも背があると思う。
「さぁ、案内してもらいましょうか」
「はいはい」
ぞんざいな口にきき方をしてしまうのは、エゴだ。
由香理さんは告白しないのかな、とか。マスターは恋人くらい作ればいいのに、とか。二人とも幸せになってほしいのに、とか。
思いやりに見せかけた、わたしの勝手な思いがエゴとなって、マスターをぞんざいに扱ってしまう。
まぁ……わたしが過去、浮気をされた経験から複数人と関係を持つのにかなりの抵抗を感じている部分が、そうさせる一番の原因だとは思うが。
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ていうか。
「マスターに場所とか言ってなかったっけ?」
お店出たんだからマスターはやめなさい、とわたしを窘めてから蓉子さんは、首を振った。
「聞かないわよ、そんなこと。一応、あなたの恋人は商売敵だし」
「我が店に敵なしとか思ってそうなのに」
「まぁね」
平然と、そう言えるところがすごい。
わたしなんか、常に取引先との契約をどこかに取られるのではないかと警戒しているのに。
「この世界に私は一人しかいないからね」
蓉子さんは、当たり前の事を得意げに言った。
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頬を指先でぽりぽりとかいて、「まぁ……そうですね」と相槌をうつ。
世界に自分はひとりだし、まぁ顔が似ている人は3人居るというけれど、似ているのは顔だけで、もしかしたらその人はフランス語を話すような人種かもしれないし。
「酔っておバカになったのかしら、この子は」
「確かに酔ってはいますけど、世界に自分が一人しかいないのは誰でも知ってるってば」
やれやれ、と溜め息をわざとらしくついた蓉子さんはわたしの頭を軽く小突く。
「世界に一人の私が、人に出来ない経験を沢山積んで、ありとあらゆる人と話をしてセックスをして、魅力を磨いていれば人は自然と寄ってくるものよ?」
フフン、と誇らしげに顎を上げる彼女。
確かに。
確かにそうなのだ。
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彼女には、人に、”また話をしたい”と思わせられる何か、魅力がある。
それは男女も問わず、老若も問わず、そして、話題も問わない。
わたしのように、悩みを聞いて欲しいと思う人もいれば、自慢を聞いて欲しいと店を訪れる人も居る。
一方、蓉子さんの話を聞きたいという人もいて、あのバーで彼女を独り占めしようと思っても精々10分が限度で、蓉子さんは次の客の元へ行く。
まるで売れっ子の嬢みたいだけど、そのくらいに彼女は人気がある。
自然と、人が集まるひとなのだ。
わたしはそう思っていたのだけれど……。
「人が自然と集まるんじゃなくて、人が集まってくるように自分磨きしてるだなんてズルイ」
「なにがズルイもんですか、それが、人と接する商売をするってことよ?」
OLも接客業なんだから、がんばりなさいな。
蓉子さんはそう言って、わたしの頭を撫でた。
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