隣恋Ⅲ~過去 現在 未来。嫉妬~ 7話


※ 隣恋Ⅲ~過去 現在 未来。嫉妬~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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  ~ 過去現在未来。嫉妬 7 ~

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 にっこり。と。にんまり。の間の笑顔。

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 男性らしからぬ、女性らしい綺麗な顔立ちが浮かべる笑みは、どこからどうみても、わたしの勘がキケンを知らせてくる。

「どうし――」
「――愛羽」

 わたしの台詞を遮って、マスターはピザを指差した。

「冷めるわよ?」

 タイミングを挫かれて、勧められるままにまた、ピザに手を伸ばす。
 はぐ、とそれにかぶりつきながら、胸の内に沸いた違和感というか、引っ掛かりの正体を暴こうと思考を働かせてみる。

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 バーのマスターを何年もやっている蓉子さんならば、人の性格や傾向について大概は把握しているものだろう。
 だから、最初の「独占欲が強い」という発言は分からなくもない。

 だけど、どうして「セックスになると性格が変わる」という発言が次に出たのか。
 独占欲が強い人が普段と性格が変わる、なんてプロファイリングは乱暴すぎやしないか?

 雀ちゃんはそういう性格をしているけれど、ズバリそれを言い当てられるだなんて、まるで……。

 まるで、元々、マスターが雀ちゃんを知っているみたいな物言いじゃないの。

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 いやまさか。
 そんな事がある?

 まぁバーテンダーという共通項はあるけれど、それだけで知り合いと疑っていてはキリがない。
 この街にバーがいくつあって、何人のバーテンダーがいるかなんて分からない程、従事者がいるのに。

「ハムスターみたいに食べてる最中に悪いんだけどね」
「む?」

 そんな小動物に例えられたのは初めてだ。
 口の中にまだものがあったから、咀嚼しながら口元を手で隠す。

「大体、相手の好みに変わってしまうと、何の不都合があるの?」

 そもそもの話よ。とマスターが首を捻っている。

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 桃のお酒で口の中を綺麗にしてから、「不都合……って言う訳じゃないんだけど……」と視線を彷徨わせる。

「恥ずかしい事だったり、抵抗を感じる事だったり、元々…え、そんな事させるの?…って思っちゃうような行為をさせられてるうちに、慣れて、それが自発的に出来てしまうのが……なんか……」
「変わる事が恥ずかしいの?」

 変わる事自体が恥ずかしい……というよりは……。

「恥ずかしい事が出来るようになってしまった自分と、それをしたら褒めてくれる彼女の嬉しそうな顔を天秤にかけたら……彼女の方に天秤が傾くことが、…かな…?」

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 そう。正に、そういう事なのだ。

 雀ちゃんがえっちの度に、何をして欲しいのか。どこを触って欲しいのか。わたしがそれを口にするまで、程度の差はあれど、毎回、言うように要求してきた。

 言わされているときは、恥ずかしいし、どうして言わなきゃやってくれないの、と不平を抱くこともあった。
 だって、以前付き合っていた彼は、何も言わなくても一人で動いていたし、彼からの要求は「舐めて」か、自分がイキそうになった時「もっとちょうだい」って言え、あとは常に喘ぎ声を大きく、しかなかった。
 別にもっと欲しいとか思ってなくてもその台詞が興奮するから言って欲しいと事前にお願いされていたから、言っていただけ。

 相手がそれでいいと言ったし、彼が早く達してくれたら行為が終わるので、わたしもそれでいいと思っていた。

 
 でも。

 雀ちゃんと付き合うようになって、えっちもするようになって、それは変わった。

 最初は言わされていた感がすごくあったのに、最近は、「言ったら気持ち良くしてくれる」「言ったら雀ちゃんが優しい目をしてくれる」なんて思うようになって、自ら、恥ずかしくて抵抗があった台詞を口にしている時がある。

 だって、行為の最中、あんなに鋭くてまるで獲物を狩る猛獣みたいな目付きなくせに、わたしが強請る言葉を吐けば、雀ちゃんの瞳が柔らかく溶けて、緩く口角をあげて、よくできました、だなんて褒められて、身体を甘く甘く愛撫されてしまうと……次もまた言ってみようかな、なんて思ってしまうじゃないか。

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「上手く調教されてるのねぇ、愛羽」
「ちょ……!?」
「調教」

 わたしが物思いに耽っていた間に、ピザをつまんでいたマスターが楽しそうに言う言葉は、人間に対して使う言葉ではないと思う。
 それはサーカスの猛獣に使う言葉であって……!

「嫌だなと思っていた事を、甘い餌を与えて自分からさせるようにするだなんて、まさに調教。調教以外の言葉なんて無いくらいよ?」

 甘い餌って……、そんな、と思うけれど、思い当たる節がいくつもあって、目元を赤らめるしかできない。

 囲炉裏の熱で元々火照ってきていた顔が、さらに、熱くなった気がした。

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