※ 隣恋Ⅲ~過去 現在 未来。嫉妬~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 過去現在未来。嫉妬 6 ~
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「相手の好みねぇ……」
ピザを食べるわたしを他所に、マスターは解いていた腕を組んで、片手を頬に当てた。
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しなやかで細い腕は、どちらかと言えば色白な方で、ますます男性とは思えない。
形や色がそう思わせるだけでなくて、マスターの場合は、所作が最も女らしさを醸し出している。
たぶん、世が世なら、国を傾けたかもしれない。そう思ってしまうくらいには、女のわたしから見ても色っぽい。
ここのバーにやってくるお客さんで、マスターが男性だという事を知っている人、知らない人。その割合は丁度半分くらいだという。
見た目女性のマスターを口説こうとする男性客はまずいない。
なぜかというと、取り合いになってどうしようもなくて、男性客は取り合うのを止めた、とわたしは聞いたことがある。
男性客Aが口説こうとすれば、男性客Bが阻止する。男性客Cが口説こうとすれば男性客Aが阻止する。
この負のループが止まらなくて、自然と、マスターを口説くという行為自体が、この店から消えたそうだ。
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かと言って、マスターが女旱であったり、男旱であったり、そういう面でのご無沙汰はないらしい。
恋人等と決まった相手を作らない主義のマスターは、男でも女でもどっちでもイケる人。
だから、お客さんで気に入った人ができたら、お店を従業員に任せてそのまま連れて行ってしまうのだそうだ。
仮にもマスターであり店主であるくせに、店を放り出してホテル街へ消えるのはいかがなものかと苦言を呈したことがあるのだが、「何のために自分の店持ったと思っているのよ。自分が好き勝手するためでしょう」と、当たり前のことのように返された。
まぁ、そんな好き勝手をしていても、この店から客足が途絶えることもなく、従業員がゼロになることもないのだから、やはり彼女の人望は厚いらしい。
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そんなマスターが「相手の好みに自分が変化してしまうのは当たり前のこと」と言ってくれたのには安堵を覚えた。
なにせここ数日ずっと悩んでいたのだから。
「例えばどう変わったの?」
「う゛……」
飲み込んだピザが喉に詰まるかと思う質問を投げたマスターは、にんまりと笑う。
「そのあたりハッキリ言ってもらわなきゃねぇ? 判断つけられないし」
ぜ、ぜったい嘘だ……いや半分くらいは本当かもしれないけれど、興味とか面白半分とかそんな具合の顔をしている。
「白状なさいな」
喉の奥でクツクツと笑う彼女を半眼でにらんで、桃のお酒で喉を潤してから……マスターから視線を逸らした。
囲炉裏の中心で赤々と燃える炭に逸らした視線をあてて、小さく言う。
「彼女は言わせたがる人だから……その、次に何をして欲しいとか、そういう…ことを……」
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ふぅんんん? と限りなく揶揄いに近い相槌を打ってくれたマスターが、ふっと何かを思い出すように斜め右上を見た。
「確か、年下だったわね?」
「え? ええ」
「随分と独占欲の強いコだこと」
フフフ、と楽しそうにマスターが笑うけれど、どうして雀ちゃんがそういうタイプだと分かったのだろうか。
今の会話からして、ヒントとなるものは『言わせたがる人』という事くらいなものだ。
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「ねぇ? そのコ、セックスのとき普段と性格変わるかしら?」
「……」
性格……。
わたしは雀ちゃんを思い浮かべる。
普段は温厚で敬語で話す彼女。一方、えっちになると……目付きが鋭くなって、最終的には敬語も外れてドのつくSになる。
「……」
わたしはじりりと視線をあげて、マスターの楽しそうな顔にあてる。
――どうして、そんなに、雀ちゃんの事が分かるのか。
「なにかしら?」
満面の愛想笑いが、どうも、怪しい。
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