※ 隣恋Ⅲ~過去 現在 未来。嫉妬~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 過去現在未来。嫉妬 4 ~
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「なに物思いに耽った顔してるの」
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そういえば、ここに来たのは社会人初めて結構すぐだったなぁ。
カクテルグラスの縁を指でなぞりながらお酒の水面を覗き込んでいると、マスターは瓶ビールに栓抜きをあてがいながら、こちらに目を向けてくる。
「わたしってかなり、マスターに育てられた所が大きいなって思ってね。それよりピザ職人って?」
「由香理がね、ピザ作るの上手なのよ。ついこの間発見して、早速店でも作ってもらうことにしたの」
自分の過去を掘り出されるのが嫌で、さりげなくピザ職人の話にすり替えようとしたものの、マスターにわたしの話術が通用する訳もなく。
「愛羽がここに来たのはヒヨっ子だった頃だったわねぇ?」
とにんまりされてしまった。
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そんな顔のまま、栓を抜いた瓶ビールに口をつけるものだから、眉を寄せてみせる。
「マスター、下品」
バーカウンターの中に居て、さらに綺麗めのドレスを身に着けている人が、瓶からラッパ飲みをしては流石によくない。
なんていうか、部屋着で瓶からラッパ飲みするのは個人的には許容範囲なんだけどね。
「あーおいし。まだお客いないから」
「いるわよここに」
即座に言い返すけれど、マスターは素知らぬふりでまたビールを煽る。
この距離感がまた、心地良いと思わせてくれる彼女がニクイ。
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瓶ビールには小瓶、中瓶、大瓶とサイズがあって、マスターが今飲み終わったものが小瓶。334mlだと教わった気がするけれど、それにしたってマスターの飲むスピードは早すぎないかと思う。
よくあんな苦いものを「おいしい」と言って、アテもなくあの早さで飲み干せるのか。わたしには真似できない。
「だいぶ成長が見られるとはいえ、まだまだヒヨっ子だけど?」
カウンターの内側にあるシンクで瓶をざっと洗ってから、足元にあるのであろうケースにそれを仕舞うマスターが、目の端で笑う。
からかう気満々で言っているのがありありと見てとれるのだけど、確かに彼女からしてみれば、わたしなんかヒヨコもヒヨコだから、言い返せない。
憮然としてカクテルグラスに口をつけるも、ザクザクと刺さってくるマスターの視線が痛い。
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「……なんでそんな見るんですか」
「なんで急にそんな敬語になるんですか」
楽しそうに口調を真似てくるマスターをにらむ。
「人が悩んでるってのに笑うだなんて」
「悩みがありますって顔に書いておいてそれをさっさと白状しないあなたに非があるのよ」
はぁ……勝てない。
絶対勝てない。
この何もかも先回りされているような感じ。
「もうちょっとお酒が入ってからとか」
「二人とももう飲んだじゃない?」
「ぐ…」
違うってば! こういう場合は体にアルコールが馴染んでからって意味で……! だなんてマスターに言っても躱されるだけだし、もう彼女はわたしの悩みを聞く気満々だし。
いやそりゃあ、聞いて欲しくてここに来た訳なんだけど……。
チラ、とマスターを見上げれば、ゴキゲンに見下ろしてくる。
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もう一口だけ。
カクテルグラスに口をつけて、お酒を舌の上で転がしてから、飲む。
桃の味がするけれど、アルコール度数が高いって言うだけあって飲んだ後喉がカッと熱くなる。
「……付き合ってる相手の好みに自分が変化していくのって……変?」
深呼吸したあと、意を決して口にした現在最大の悩み。
1。
2。
3。
きっかり3秒間、表情も体の動きも固まったマスターは、咳払いをひとつ落としてから、わたしを見つめ返してきた。
「変ではないし、それが当たり前だと私は思ってるわよ? ていうのを前提に、もう少し詳しく教えてくれないかしら?」
変でない、当たり前、の言葉に安堵しつつも、やっぱり事情説明は要求されるよね、と内心予想通りの現実に溜め息。
やっぱりもう少し、酔ってから話したいなぁ……。
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