隣恋Ⅲ~急ぐ鼠は雨にあう~ 16話


※ 隣恋Ⅲ~急ぐ鼠は雨にあう~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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  ~ 急ぐ鼠は雨にあう 16 ~

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 主導権をこちらに取り戻さなければ、私は今夜、彼女にイタズラできなくなるだろう。

 一秒でも早く、取り戻さなければ。

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 胸中で思うものの、愛羽さんの指先が私の右手の甲を滑らかに撫でてくるせいで、イニシアチブ取り戻し計画について思考を正常に機能させられない。

 背骨に添うようにゾクゾクした感覚が這い上がってきて、脳みそがジンジンと痺れる。
 寒気にも似たその感覚を感じている反面、顔は熱が集中していて、世間一般的にハズカシイ事をしているのは愛羽さんの方なのに、こちらが照れてしまう。

 いや、この顔の熱は照れなのか。それとも興奮なのか。
 たぶん、どちらも該当するだろう。

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「でも、ね…?」

 ナイショ話をするみたいに、依然、小さな小さな声で愛羽さんは私に語り掛ける。
 他所に気をやるつもりはないけれど、そんなふうに小声で話をされると、”聞き取らなければ”とか”聞き逃してはいけない”とか、そういう人間の心理が働いて、腕の中の恋人のことしか、考えられなくなっていく。

「下ばっかりじゃ、いやなの」

 自分が我侭を言っていると自覚しているけれど、それでも願いを聞いて欲しい。

 そんな雰囲気を醸し出す声色を、彼女はどうやって習得したのだろうか。
 誘うとか、そそるとか、熟知しているその声色を今まで、何人のひとに聞かせてきたのだろう。

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 彼女の過去の恋人たちに嫉妬しても仕方がない。そう思う一方で、腹の底に燻る黒い感情。

「こっちも、寂しいの」

 私の右手に添えていない方の手で、愛羽さんは自分の唇を指差す。指差したその人差し指は、ぷにぃ、と下唇を押してみせて、まるで、唇の弾力や柔らかさを私に見せ付けるみたいにしている。

「キス、して……?」

 トドメ、と言わんばかりの誘い文句が、私の耳には殺し文句のように忍び込んだ。

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 寒気を訴える背と、熱を訴える顔。嫉妬を燻らせる腹の内。すべてがごちゃ混ぜになったまま、私は愛羽さんと唇を重ねた。

 予想通りに柔らかい唇は間を置かず薄く開く。
 こちらの舌を招き入れるよりも、自ら伸ばしてきた舌が、私の唇を舐める。

 舌先を固くした状態で唇の縁を辿られた私は、愛羽さんの手に促されて、右手の指を奥へと進めた。

「…っ、ふ、…ン……」

 唇を舐めながら、下腹部に与えられる快感に声を漏らす愛羽さん。
 私の右手に重なっていた彼女の手が、ひく、と震えたあと、更に快感を求めるよう、下腹部をこちらに押し付けてくる。

 その貪欲な性的欲求につられるように、愛羽さんの舌を捕まえて口内へと誘い込んだ。

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 口内で、愛羽さんの舌は甘えるみたいに私の舌に擦り寄ってくる。ざらつく舌同士を絡めて、擦り合わせて、互いの唾液を混ぜ合わせる。
 興奮からか、刺激からか、口内に唾液がじわじわと増える。引力によって愛羽さんの舌を伝い、彼女の口内へと流れてゆくそれ。

 普通なら嫌悪感を抱いて当然のことも、情事の最中では興奮材料になる。

 一旦、私から舌を抜きとり、愛羽さんはさも当然の事のようにコクリと喉を鳴らした。
 唾液を飲んだ、という事実を突きつけるような音を耳にして、心が震える。
 自分が完全に受け入れられている事に、私は感動すら覚えた。

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 ひとり、感動に心を打ち震わせている私の首に、愛羽さんの手がピトリとあてられた。
 頸動脈に触れるようにあてられた手が、項へと滑る。そこから、後頭部の髪をかきあげるみたいに指を梳き入れられて、鳥肌が立つ。
 余談ではあるが、私は後頭部が弱い。美容院に行ったとき、コームで髪を分けられると必ず鳥肌が立つのだ。

「……と」

 後頭部に気を取られ過ぎて、聞き逃した。
 反射的に「え?」と聞き返すと、愛羽さんは蕩けた瞳で私を見上げて、後頭部に添えた手で私を引き寄せながら告げた。

「もっとちょうだい」

 と。

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