隣恋Ⅲ~急ぐ鼠は雨にあう~ 3話


※ 隣恋Ⅲ~急ぐ鼠は雨にあう~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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  ~ 急ぐ鼠は雨にあう 3 ~

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 視線を絡めたままで、愛羽さんはゆっくり。ゆっくりと、唇を解放した。

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 く……ち、と微かな微かな音が立って、唇同士が離れた。
 粘膜の表面が、互いにくっついて離れまいとするように引き合う最後の感触までをも楽しんだ様子の愛羽さんは、甘ったるい声をさらに甘くして、囁いた。

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「いま、なに考えてたの?」

 緩く弧を描いている目は、どうやら私の考えが余所見をしていた事なんてお見通しのようで、ここで言い訳なんて通用しないだろう。が……、一応、反抗心も見せておこうかなんて、無駄な抵抗をしてみた。

「愛羽さんの事です」

 当然だ、なんて言いたげな声を作って目を逸らさずに言った。
 そりゃあまぁあれだ。
 キスしながらカクテルの事考えてました、だなんて言った日には、掴まれている耳を引きちぎられてしまうかもしれないし。

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「ふぅーーーん……?」

 長い相槌なのか返事なのかの声を鼻から漏らしつつ、愛羽さんは軽く覗かせた赤い舌をこちらに伸ばした。そして、私の閉じた上下の唇の谷間を左から右へツツツツと舐めて、低いトーンで「ほんとに?」と確認するように問う。

 その確認は、明らかに、私が嘘を吐いていた事を詰るもので、「う」とだけ唸った私は無駄な抵抗をするのは止めて「スミマセン」と謝罪した。

「だって、動くななんて、言うんですもん」

 そんな難題を押し付けられたのなら、それ相応に、キスから意識を逸らしていないと、無意識にでもその柔らかい唇に食らいついてしまうというものだ。
 だから仕方ないじゃないか。なんて思いも腹の底に秘めつつ、クスクスと笑っている悪戯人の唇を奪ってやった。

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「んっ」

 私がそういう行動に出るとは思っていなかったのだろうか、短くキスの陰で声をあげた愛羽さん。
 ソファの背もたれに両手を着いて、両膝を座面の上へのせていた私は、片手だけ離して、愛羽さんが逃げられないように彼女の後頭部へとまわした。

 下から上へ手櫛を通すようにして後頭部の地肌へと触れた私の指に、長い髪がくしゅりと絡まる。
 軽い巻きのかかった髪をくしゅりと握るようにして後頭部を支え、キスを深める。

 もう、あんな押し付けられた難題に向き合うのは、やめだ。
 こんなにも可愛くて大好きな恋人とキスするのに動くなだなんて、無理なものは無理なのだ。

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 こちらが開き直ると、愛羽さんはいう事を聞かせるのも諦めてくれたようで、私達は思う存分にキスに耽った。
 柔らかい唇と、それよりも温度の高い舌を堪能して、好意を交わすキスは心地よくて、いつまでもこうしていたいと思う。と、同時に、さらに、彼女が欲しくなってしまうのもまた事実。

 だってなにせ、キスが深まれば深まるほど、愛羽さんの声と吐息が、糖度を増してゆくのだからたまらない。
 意図的に声音や雰囲気に乗せられた人工的な甘さではなくて、天然ものの、湖の底から湧き出る水の如く、どこまでも純粋な甘さだ。

 キスとキスの合間の息継ぎを縫っては、ここがまるでベッドの中かというような声を聞かせてくれる恋人が可愛いくて仕方がない。
 そんなことを考えながら愛羽さんの口内を堪能しているうちにいつの間にか、耳を握っていた手が私の肩に触れていて、そこの服をぎゅうと握りしめている事にも気付く。

 ――可愛い過ぎる……。

 ぢゅ、と湿った音を立てて愛羽さんの舌の先を吸って放した私は、上気した顔を見つめてにっこり笑った。

「愛羽さん、トリックオアトリート」

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