※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 二つの封筒 10 ~
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睨まれたことよりも、離された手の方が、堪えたらしい。
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雀ちゃんは、悲しそうに手に視線を落としてから、むぐ、と口をもごつかせた。
それから、への字にした口を隠そうともせずに、わたしと、手を交互に見比べる。
まるで悪戯を見つかってしまったけれど認めたくない。そんな小さな子がするような仕草に、不覚にもきゅんときてしまった胸の内で、善意が囁く。
”いつも優しくしてくれている彼女に対してあまりにもひどすぎないか”と。
”もっと優しくしてあげても、罰は当たらないのに”と。
”むしろ、優しくしないと罰が当たるぞ”と。
わたしは、両手を広げた。
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「おいで。雀ちゃん」
彼女の名前を言いきるより前に、動き出していた雀ちゃんはすぐに、わたしの腕の中に収まった。
わたしよりも背が高い彼女は当然、わたしより座高も高い。
丸めた背中に腕を回すと、大人しくわたしの肩に額を乗せる雀ちゃん。
――どうしよう……可愛い。
「嘘ついてごめんなさい。白状します」
「ありがと。いい子ね」
「愛羽さん達を酔に迎えに行ったあと、まーさんから預かったのはアンケートだけじゃなかったんです」
…………へ?
撫でていた頭の上で、手の動きをぴたりと止める。
白状するというから、てっきり、「まーさんからラブホテルに行くって聞いてました」とか言うと思ったんだけど……何か、話が随分違う方向へと……?
「愛羽さんには黙っておくように、って言われて……その、媚薬を1つ貰ったんです」
「ええ!?」
び、び、びやく……っていつぞや、わたしと雀ちゃんに秘密で盛ったあの媚薬……!?
「内緒で愛羽さんに飲ませたらいいんじゃない? ってまーさんには言われていたんですけど……でも、どこにデートに行くかは、本当に聞いてなくて。媚薬持っていける場所っていうとどこだろうって考えてて……さっきラブホテルって愛羽さんが教えてくれた瞬間、納得がいって。……黙っててごめんなさい」
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抱き締められて、優しさに絆されたのか、全てを白状した雀ちゃんはわたしの肩に額を押し付けた。
媚薬をもらっていたという事実に衝撃をうけていたけれど、肩のぬくもりで気を取り直したわたしは再び彼女の髪を撫でた。
「正直に話してくれたから、許してあげる」
強張っていた雀ちゃんの体が、少し弛緩する。
どうやらほっとしたらしい。
髪を撫で続けながら、わたしにも謝らなければならない事があるのだと胸中で溢す。
けれどそれを告げるのは、明日ラブホテルに入ってからの方がいい気がしてきた。
今謝っても、今の彼女には抱えている罪悪感が大きくてすぐに許してしまうかもしれない。それに「おあずけ解禁」の直前に謝るほうが、流れとしては自然ではないだろうか。
心の中で彼女に「今謝れなくてごめんね」と告げて、わたしは雀ちゃんのこめかみにキスをした。
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「あと、ね。ラブホには二泊できるの」
「え?」
通常ラブホテルは一泊だと知っていたのだろうか。顔をあげた彼女が意外そうな表情をしているのをみると、利用したことはなくともそれなりの知識はもっているのかもしれない。
まーから貰った宿泊無料券と淡いピンク色の封筒の話。そして、アンケートの話をしてみせると、雀ちゃんは感心したように息を吐いた。
「まーさんって、一体何者なんでしょうか?」
……確かに、わたしもそれは思う。
ラブホテルの経営者なんてそうそう出会えるものではないし、媚薬を手に入れてくるルートも気になるものがある。
「一応、わたしの上司のはずなんだけどねぇ。雀ちゃんに悪いこと吹き込むしねぇ」
わたしに黙って媚薬を盛ろうだなんて。
それで板挟みになった彼女はちょっと泣きそうな顔していたし。
上手く立ち回るでもなく、すぐにバラしてしまうでもなく、板挟みになった結果わたしに白状した雀ちゃんの純粋さとどんくささと、誠実さに胸がきゅんとなる。
いい子だなぁと思う反面、母性本能がくすぐられるのか、なんだか守ってあげたくなる。
ごめんなさいと再度謝る彼女に、首を振って、わたしはその体を抱き締めた。
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