※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 二つの封筒 6 ~
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「……まだ」
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だって、朝、我と時間を忘れて、雀ちゃん襲っちゃったし。
「え゛!?」
「色々忙しかったの! 昨日は話する前に寝落ちちゃって、自分でもいつ寝たのかも分からないくらいだったの! 今日帰ってからちゃんと説明するから」
まーの驚きようもなにかスゴイけれど、それを気に掛ける余裕がない。
必死に冷静さにすがって、赤くなりそうな顔を落ち着けるだけで、今のわたしは精一杯なのだ。
「あー…へぇ、今日ね。今晩ね、あー、へーほー。なるほど。じゃあ頑張って仕事早く終わらせなきゃねぇ」
「わたしの仕事が終わっても雀ちゃんがバイトらしいから……一度家に戻るのかは聞いてないけど」
「聞いてあげようか!?」
「い、いいわよ別に。帰って居たら話しておくから」
ていうかもう仕事始まる時間だから! と彼女を無理矢理席から立たせて、自分のデスクに追いやる。
なんだってこう、やましい事がある部分をツンツンしてくるのだろうか、まーは。
恥ずかしいったらありゃしない。
「……もう……」
触れた唇の感触や舌の熱を、まざまざと思い起こしてしまいそうになったわたしは、慌てて今日のスケジュールの再々確認をした。
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やはりまだわたしの体に睡眠時間が足りていないようで、どことなく集中力が足りない。
仕事を進めながらそんなことをぼんやり頭の隅で考えてしまうくらいは、思考が散漫している自分を冷静に分析するもう一人のわたし。
一応やることは予定通り進められているし、今日はこんな感じでいっか。
なんて妥協しつつ、キーボードを打ち込む。と、不意に沸いた疑問がひとつ。
――そう言えば、昨日はほんとにいつ寝たんだろう……?
お風呂に入ったところまではちゃんと覚えている。お風呂の中で寝落ちしかけながら、シャワーを浴びたことも。
それで、お風呂からあがったら……そう、雀ちゃんが居たんだ。ソファに。
えーと……それから……?
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あ、そう。髪を乾かしてくれたのよね、雀ちゃん。
その手の感触っていうのか、温風の当たる感じとか、頭を撫でられる感じが気持ちよくてうとうとしながら、顔のお手入れをして……それから。
逃げようとした雀ちゃんを捕まえて、ベッドに連行して……。
その先、思い出せない。
パソコンのキーボードをタイプする手を止めて考えても、中々思い出せない。
無意識に顎に指をあてて、考える人のようなポーズをとると共に、椅子の背もたれに体重をかけた。
ギッ。
椅子が軋むその音と、記憶の中のベッドが軋む音が、リンクしたのかもしれない。
フラッシュバックする一瞬の記憶。
わたしの髪が覆いかぶさるのも気にせず、唇を押し当てている、その霞がかった記憶。
「……」
わたしは顎にあてていた指を、唇に押し当てた。
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え、まって、わたし、昨日……キスした……?
一瞬だけ、そのシーンが甦った脳裏に、動揺する。
――や、もしかしたら、違うかも。わたしの思い違いかもしれない。
焦る自身を落ち着かせるように記憶を否定してみるが、普段から同じベッドに入ったらおやすみのキスをする習慣がある。
眠くて仕方ない状態でもその習慣付けられた行動をした確率は高い。
動揺が、膨らむ。
――てことは、よ? 昨日からわたし、雀ちゃんに一方的にキスして、わたしの都合だけで、それ以上はさせてないって……こと……?
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それまで、まるで仕事の事で悩んでいる風を装っていたけれど、さすがにこれには頭を抱えた。
皆自分の仕事に集中してるし、わたし一人、デスクに両肘をついて頭を抱えているからって目立ったりしないだろう。
――やばい。それは、まずい。
考えてみれば、昨日からではない。
一昨日からだ。
わたしも雀ちゃんも、したくてたまらなかったあの夜からずっと、わたしは彼女に我慢を強いている。
――最悪じゃない……それ。
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