※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 二つの封筒 5 ~
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多分、来てるんだろうなと思っていたけれど。
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わたしの上司である森真紀は、会社で何かトラブルが起きたら必ず、誰よりも早く出勤して、誰よりも遅く帰宅する。
そうして通常の業務に加えて、問題解決を図ってゆくため、給料と残業代以上の働きをする彼女は、上層部からの信頼が厚い。
でも、今回のハプニングは、一応解決している訳だし、原因も分かっている。
それに前日の残業からの徹夜は、彼女の体に確実にダメージを与えているはず。
だから、朝はゆっくりしなさいよ、と忠告しておいたのだが。
わたしが出勤した時、彼女はデスクに座って、何故かせんべいを片手にパソコンに向き合っていた。
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自分のデスクへ着く前に、まーのデスクへと近付く。
「おはよう」
「ひょ! ……はよ、う」
背後からの忍び寄ったつもりはないのだけれど、何故かもの凄くビックリされた。
びくぅ! と肩を跳び上がらせた彼女は、わたしを見上げてせんべいをぱりと一口齧る。
その目は何かを見定めようとするときみたいに、じっとこちらを窺っていて、わたしは首を傾げた。
「なにかまた問題発生?」
「あ、いやそんな事はないよ? 全然。いきなり愛羽の声が聞こえたからちょっとびっくりしただけよおほほほほ」
……?
なんか、様子が、おかしい。
隠し事?
片眉をあげて、疑うように、窺うように、まーを見つめてみると、彼女はまるで洋画に出てくる「Freeze!」と叫ばれた犯人のように、両手を上げた。
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「別に隠し事なんてしてないから!」
「……今の台詞で隠し事ありますって言ってるようなものだけど、まぁ、その目の下のクマに免じて見逃してあげるわ」
早朝出勤お疲れ様、と肩を叩いて、自分のデスクへと向かった。
肩にかけていた鞄を下ろして、視界に入った隣のデスクで思い出す。
そういえば今日は伊東君と、神崎さんが休みだ。
何かフォローしなければならない仕事があるか、チェックしておかないと。
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パソコンを立ち上げて、無いとは思うけれど、ウィルスチェック。異常なしとの結果を見た後に、メールチェックとスケジュールの確認。
ディスプレイに視線を走らせていると、ギシ、と隣のデスクの椅子に、誰かが腰掛けた。
……ん?
一瞬いつものクセで、伊東君おはようと言いそうになったけれど、違う。今日は彼は特別有給休暇だ。
てことは人の席に座る人物と言えば……。
「たべる?」
せんべいが、目の前に差し出された。
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「朝ご飯ちゃんと食べてきたからいらない。ありがと」
まーからの差し入れに首を振ってみせると、大人しくせんべいを引っ込めた彼女は、わざとらしく、咳払いをする。
「……、なに、わたしの顔に何かついてるなら早く言ってよ……?」
じーっと見てくるものだから、朝、出掛ける寸前に雀ちゃんとキスした事がバレているのかと不安になってくる。多少だけど、口紅が移ったのは確認していたので、まーから見て「愛羽の口紅が一部薄い……キスしたな?」とでも思っているのだろうか。
それを始業時間までにからかいに来たのかしら……?
でもわざわざそんな事言いに?
自分の中に湧いた疑問をすぐに打ち消しながら、椅子を90度回転させて体ごと向き直る。
何を言いに、わざわざ自分のデスクからここまで足を運んだのかは知らないけれど、何かが言いたいのだということは、彼女の雰囲気から伝わっている。
こちらが聞く態勢をとってみせると、まーはもう一度咳払いをして、居住まいを正した。
「すずちゃんに、デートでどこ行くか、説明した?」
どうして、朝一から、まーの口からそんな質問が出てくるのか謎だったけれど、彼女の言葉をきっかけに朝の一件を思い出したわたしは、若干赤くなりそうな顔をパソコンのディスプレイに向けて気を紛らわせた。
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