隣恋Ⅲ~二つの封筒~ 4話


※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ 二つの封筒 4 ~

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 ……もしかしたら妙に思われたのかな……。

 ううん、妙というよりは、不愉快、とか……?

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 胸の内に沸いた暗くて黒い考え。
 もこもこと増え続けるそのマイナスな考えに無理矢理フタをして、お化粧を済ませる。

 服、髪、顔、荷物。最終チェックを終えて、鏡の中の自分に向かって頷く。
 それからローテーブルに置きっぱなしだったアンケートを棚に仕舞って、どうしようか迷ったけれど、スケジュール帳に挟んであった淡いピンク色の封筒も、同じく棚に仕舞う。

 スケジュール帳は鞄に仕舞って、雀ちゃんに連絡してみる。
 彼女が家を出る時間は意外と一定ではなくて、大学の講義に合わせてでたり、講義がなくても早めに出て図書館で勉強したりと、その時の予定によって変わる。

 だから朝一応、一緒に出掛けるかどうかを尋ねるのだけど……。

 先程のそそくさと帰った後ろ姿を思い出すと、携帯電話を持つ指がすこしだけ震えた。

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 ベランダの鍵を閉めている間に彼女から返事が無かったので、とりあえず、玄関に行って靴を履く。

 それでも返事がないので、時間も迫っているし、仕方なく、鍵を片手に、玄関の扉を押し開けた。

「あ、きたきた」
「び、っくりした……外に居たの? もしかして、待っててくれた?」
「そりゃもちろん」

 わたしの部屋のドアの前で廊下の壁に凭れていた彼女は、にっこりと笑顔を見せてくれた。
 胸の内に抱えていた不安など一瞬で吹き飛ばしてくれるその笑顔。

 やっぱり、好きだなぁと胸がときめいた。

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 ちょいちょい、と手招きをする。
 わたしはまだ玄関のドアの内側。

 ちょっと首を傾げた彼女がなになに? というふうにこちらに足を運んでくれる。

「どうしたんです?」
「ほんと、ちょっとだけ」

 雀ちゃんの腕を引いて、玄関の中へ。手を離した扉がぱたんと閉まったと同時に、彼女をきゅっと抱き締めた。

 お化粧が服に付くといけないから顔はくっつけられないんだけど、ぎゅっと抱き着く。

 面食らったようにわたしをぶら下げたまま、目を瞬かせている雀ちゃんが、破顔しながらポケットから携帯電話を取り出した。
 ホームボタンを押してディスプレイに時間を浮き上がらせて、こちらに見せる。

「時間、大丈夫ですか?」
「あと1分」
「もー……時間ない時に誘うの禁止って言ったのに」

 そんな台詞を吐きながらでも、空いた片腕で抱き締めてくれる彼女が、すき。

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「愛羽さん。もしかして、私の事好きですか?」
「もしかしなくても、好きなんですー」

 抱きつく腕だけじゃ足りなくて、頭をぐりぐりと押し付ける。
 でもおでこを押し付けないよう気を付けているから、なんかもう猫が頭をごんごん擦り付けてくる時みたいになる。

 でも、キスすると口紅が彼女に移っちゃうから。
 わたしは口紅を塗り直せばいいから別に構わないけれど、雀ちゃんが嫌かなと思って我慢している。

「ねぇ愛羽さん」
「ん?」
「キスしちゃダメですか?」

 いいけど……口紅つくよ? と、少なくとも彼女もキスをしたがってくれた事に頬を緩めつつ、心配事を伝える。
 すると彼女は、ちょっと残念そうな顔をした。

 あれは多分、わたしが嫌がっていると勘違いしてる。

「だめ、ですか?」
「わたしはいいけど、雀ちゃん大学で揶揄われたりしない?」

 言い方を変えてみせると、雀ちゃんは嬉しそうに目を細めて、身を屈めて来る。

「からかわれないから、平気です」

 もう多分、1分は超えているだろうけれど、わたし達はキスをした。

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 キスと言ってもさっきソファでしたみたいに濃厚なものじゃなくて、軽い挨拶程度だ。
 顔を離して目を開けて、彼女の唇を指で拭ってみると、ほんの僅か、色が付いた程度だった。

「あんまり付いてないね」
「つけたかったんですか?」
「そゆ訳じゃないけど」

 付いたら付いたで、なんかちょっとえっちぃし、キスマークみたいな感じでこのコを独占してる気分になるから、好きなの。とは言えない。

「いこっか」
「はい」

 笑顔を交わして玄関を出て、鍵をかけているわたしの背後で、雀ちゃんが尋ねた。

「口紅塗って、ティッシュくわえなくていいんですか?」
「んー? そんなとれてないし、大丈夫でしょ」

 エレベータへと歩き出しながら、「なんだ……」という呟きが耳に届いて、目を丸くして隣を見上げた。
 そもそも、口紅を塗ったあとティッシュオフをすることまで覚えている事にも驚いたし、その上、残念そうな声を聞けば、驚きを抱かずにはいられない。

「お化粧直し、させたかったの?」
「ぇ、あ、いやその……ティッシュくわえるのえろいなーなんて……」

 ははは、と後ろ頭をかく彼女は、どうやら、自分好みの仕草をさせたかった魂胆をも、先程のキスに含ませていたようだ。

 恋人として、性的欲求をこちらに向けてもらえるのは嬉しい事だけど、彼女がそんな策を張り巡らせていたことには、少し驚いた。

 もしかすると雀ちゃんは、わたしが思うほど、ただただ純粋な子、という訳ではないのかもしれない。

「雀ちゃんのえっち」

 意外な一面を垣間見れた。
 その嬉しさに頬を緩めつつ、隣の彼女の腕を小突いた。

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