※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 二つの封筒 3 ~
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「そういえばあれ、まーさんから預かったやつ、仕事関係のものですか?」
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話題を切り替えるためなのか。
それともわたしの視線を追いかけて目に留まったのか。
雀ちゃんが大き目の淡いピンク色の封筒を指差した。
「え、あー、仕事、っていえば仕事、かな?」
急がなきゃいけないのに、お化粧の手が止まる。
だって、あの中身は、ラブホテルのアンケートだもの。
「もしかして、中、見た……?」
「いえ見てないですけど、仕事関係の書類にしては愛羽さんらしくないなーと思って」
確かに。わたしはいつも、仕事関係の書類は必ずファイルに挟むか何かして、皺や折り目がつかないよう大切に扱う。
それをよく見ている彼女だからこそ、ああして置きっぱなしにしてある封筒を不審に思ったのだろう。
「昨日、眠くてしかたなかったから……」
お化粧を再開させながら、適当な言い訳を見繕う。
決して、嘘ではない。
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「あーまぁ確かに物凄く眠たそうにしてましたねぇ……」
どこか感慨深そうに、雀ちゃんが腕を組む。
そんなに、人から見ても分かるくらいに、眠たそうにしていたのだろうか。
「……。そうだ。今度の金曜からどこ行くんですか?」
「え、っと……ねぇ……」
お化粧に必死なフリをしつつ、時間を稼ぐ。
そりゃあ、ありのまま、正直に、まーからラブホテルの無料宿泊券をもらったので、連泊で行こうと言えば済む。
だけど、先程あんな濃厚なキスを、時間も我も忘れてしてしまったあとに、「ラブホテル」という台詞は、かなり言い辛い。
だから。
「雀ちゃん、今日、バイトは?」
「今日は24時まであります」
「帰ってからちょっとでいいから、お話してもいい?」
「え、でも愛羽さんまだ疲れ取れてないだろうから、早めに寝たほうが……」
優しい。やっぱり、天使。
だけど、その天使さんに、わたしはちゃんと説明しなきゃいけない。
実は雀ちゃんがラブホテルに嫌悪感を抱く価値観の持ち主だったなら、この淡いピンク色の封筒2つを、早々にまーに返却しなきゃいけないのだから。
何も説明せず当日ラブホテルに連れていって、「気持ち悪いんで帰りましょう」とか言われた日には、もうどうしていいか分からない。
だからちゃんと、説明をしてから、そういう所には連れていかないと。
「その、金曜から行くところについて、ちょっと言わなきゃいけない事があるから……」
「……、は、はい」
今、ぱぱっと説明しちゃえばいいんだけど、渋るから、雀ちゃんが緊張した面持ちになってる。
ご、ごめんね雀ちゃん! ちょっとだけ! 一日だけ気持ちを落ち着ける時間をちょうだい!
胸中で謝り倒すわたしに、「あ、ちょっと大学行く準備してきますね」と言い置いた雀ちゃんはそそくさとベランダへのドアを開けて、自分の部屋へと帰っていった。
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