※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 二つの封筒 2 ~
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わたしが居るのと、反対の斜め下へと逃がされた視線。
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照れているから逸らしたのだと理解していても、大好きな人がわたしから目を逸らしたのはいやだった。
嫌、という簡単な言葉でひとくくりにすればそれで終わりなのだが、悔しいとか寂しいとかこっちを見て欲しいとか色々、思うところはある。
「すーずーめーちゃん」
首に回していた両腕を解いて、片方の手で彼女の頬をそっと捕らえた。
手の平に伝わる熱は平常時よりも幾分か高くて、彼女の照れ具合が窺える。
「キス、しよ」
わたしの言葉に、抵抗する気はないのか。
逸らした視線は相変わらずだけど、こちらを向かせようとすれば素直に首を巡らせる彼女も、キスしたいと思っていたのかもしれない。
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顔を傾けて重ねた唇は、ふんわりと柔らかくて、温かい。
きゅ、と下半身が疼いた気がするけれど、気のせい気のせい。キスの一つや二つでそうなる訳がない。
ちゅ、ちゅ、と軽く音を立てながら何度も彼女の唇に吸い付く。
微かに香ってくるのは先程の朝食にあったコーヒーの香り。
まだ、もう少し、時間はあるはず。と体内時計を信じて、わたしは口付けを、深くした。
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コーヒーの香りに誘われたように、彼女の唇の奥へと舌を伸ばす。
驚いたように雀ちゃんが微かに息をのむ気配がしたけれど、構わず、彼女の歯列をぺろと舐める。
頬にあてていた手のひらを滑らせて、耳を通り、項に指先をかける。指と指の間にサラリと入り込む髪の感触が、気持ちいい。
頭を抱え込むようにして、さらに口付けを深くすると、雀ちゃんが小さく声を漏らしながら、舌を伸ばしてくれた。
先端同士で挨拶をするように触れ合って、それから、舐め合う。
ぬ、る……、と口内で滑る感触に、わたしも思わず、鼻から声が抜けてしまった。
朝から、なにを。と今更ながらに思うけれど、零れる吐息と声に、余計、そそられる。
朝日に似つかわしくない卑猥な音がたつけれど、そんな事が気になるくらいなら、とっくにキスを解いている。
いつの間にかわたしの胸に添えられていた雀ちゃんの手が、やわやわと、スーツ越しに膨らみを揉みこむ。
――ちょ、と……皺になる……!
これから外出するのだから、と思う理性は残っていて、わたしは彼女の手首に指を引っ掛けた。
やめさせようと下に引っ張ると、くるりと反転した雀ちゃんの手に、指を絡められ、ぎゅっと握り込まれてしまった。
正面から手の平を合わせて手を握る、俗に言う恋人繋ぎというやつ。
あれよあれよという間にそんな形に固定された手に気を取られた一瞬、彼女の口内で舌の下側を擽られて、わたしは思わず、声をあげた。
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自分でも思った以上に大きな喘ぎ声がでた。驚いて舌を引っ込めて、唇を離して、それでも近い距離で、乱れた呼吸を濡れた唇から零す。
――腰……あつ、ぃ……。
潤んだ視界で、雀ちゃんが何か言うけれど、低くて掠れた声が聞き取れなくて、彼女の瞳を覗き込んだ。
「……時間、いいんですか」
「ぇ、……あ!」
するりと繋いでいた指が解けて、雀ちゃんが困ったような笑みを浮かべた。
「時間ない時、誘うの禁止ですよ」
「ごめん、つい」
いつの間に、あんな深いキスになっていたのか。よく考えれば、あのタイミングだと思い当たる節はあるのだけど、思い返している暇はないし、そんな暇な時間があるなら、もっと雀ちゃんとキスしてたい。
お化粧の準備をしながら謝ると、彼女は自分の唇を指で拭いつつ、「嫌じゃないんですけどね」と先程とは違って照れずに言う。
「今度の休みとか、時間あるときに誘ってくださいね」
「え、あ、う……うん」
今度の休み、というキーワードにはっとして、わたしは目の前のローテーブルの上に置きっぱなしにしていた、宿泊無料券が入った小さめで淡いピンク色の封筒を挟んだスケジュール帳と、アンケートが入った淡いピンク色の大きめの封筒に目をやった。
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