隣恋Ⅲ~ひねもす~ 35話


※ 隣恋Ⅲ~ひねもす~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ ひねもす 35 ~

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「……にそれ……卑怯」

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 じわ、と更に潤んだ愛羽さんの瞳。
 詰る言葉だが、その言葉には甘い響きしかなくて、勝手に目尻がさがる。

「卑怯なもんか」

 これは貴女を”どろどろでぐちゃぐちゃ”にするための序章に過ぎない。この後にはたくさんの策が待っているのだから、覚悟していて欲しい。
 そんな物騒な考えを抱いているだなんておくびにも出さず、私は大好きだよと囁いた恋人へ、唇を寄せた。

 額に、瞼に、頬に、鼻のてっぺん。
 どれだけ私が貴女のことを好きなのかこのキスで伝わればいいけど、これで伝わりきったら私の愛はどれほど少ないのだと落ち込みそうだ。だから、まだ、伝わりきらなくていい。
 これは挨拶と思ってもらっても構わないくらい、私はこの後、愛羽さんを可愛がる予定なのだから。

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「好きなひとに好きって伝えてるだけだから」
「わ、わたしだけ欲しがってばかみたいじゃないの……っ」

 ぐっ、と私の浴衣の襟を掴む愛羽さんに締め上げられた首元が苦しい。
 けれどその息苦しさも、彼女の手により生み出された苦しさだと思えば、甘く感じてくるくらいだ。

 私は口元に薄く笑みを浮かべ、鼻先同士をくっつける距離で彼女の潤んだ瞳を見つめた。

「このセックスが終わっても、今のと同じ事が言えたら、謝るから」

 すり、と鼻を擦り寄せつつ、顔を傾けた私は、目を伏せた。

「私がどれだけ愛羽を欲しがってるか、ちゃんと感じて」

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 愛羽さんは元々、「セックス」という言葉に抵抗感を持っている。基本的には「えっち」というし、私が「セックス」という言葉を口にすれば、怯んだように口元をもごつかせる。

 今もそうだったな、なんて一瞬前、目にした映像を脳内で再生しながら、口付けた彼女の唇を軽く、啄む。
 上唇、下唇、それぞれを軽く啄んでいると、私の襟を締め上げる手が緩んできた。

 息苦しさがなくなったことにほっとしつつ、息継ぎの間をとるため唇を離した私は、瞼を閉ざしたままの彼女に「好きだよ」と囁いた。

「……」

 彼女は何も答えなかったものの、瞼をふるっと震わせた。
 その反応に気を良くして、私は再びキスを再開させる。
 彼女が何も言わなかったのは、たぶん、言わなかったのではなくて、言えなかったのではないかと思う。

 自分の予測とは違った行動ばかりする私に少し戸惑って、身構えた愛羽さんの背中から不意打ちする私を持て余しているのだ。

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 その証拠に、唇を啄む回数が増えてくると、私にどう対処しようかその心が決まったのだろう。彼女はようやく落ち着きを取り戻して、キスの合間に「好きだよ」と囁く私の言葉に、小さく頷きつつ「…ぅん…」と返答してくれるようにまでなった。

「好き」
「ん……」

 まだ、こちらからは舌も入れていないのに、この蕩けよう。
 もしも、彼女の口内へ私の舌を挿し込み、その熱い舌を絡めたらどうなるのだろう。

 想像しただけで、じわりと甘い波が私の内に広がった。

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 離した唇はすでに濡れ、照明の淡い光を反射させている。その唇に息がかかる距離で、私は彼女の髪をそっと撫でた。
 熱に浮かされたみたいに、ぽうっとした瞳を覗かせた愛羽さんは、心地良さげに私の手にされるがままだ。

「可愛いよ」

 囁けば、彼女は眉をきゅっと寄せた。それは、いつも「かわいくないから」と否定するときの表情なのだが、なぜか、今日は、その言葉がいつまでたっても、聞こえてこない。

 意外さにこちらが目を丸くしていると、彼女はなんだか複雑そうな顔で、私のことをにらむ。
 まぁ睨んだところで、可愛いさに変わりはないのだが。

「雀ちゃん」
「ん?」
「言わないように我慢してるんだから、早く口塞いで」

 なるほど。
 彼女はいつものように「可愛くない」と言いたいものの、どういう心境の変化なのか、それを我慢しているらしい。
 私としてはいつもの否定がないのは、どちらかといえば嬉しい事なので、言われた通りに、愛羽さんの可愛らしい唇を、唇にて塞がせてもらった。

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