隣恋Ⅲ~ひねもす~ 34話


※ 隣恋Ⅲ~ひねもす~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ ひねもす 34 ~

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 いやもうそんなの、まさか、と思う。

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 あれだけ引っ張って、そして今の流れで。「キスして」だけ……!?
 お笑い芸人じゃないけど本当にあんな感じでコケたい。
 なんて思った次の瞬間。

 愛羽さんは、続けた。

「いっぱい、舐めて。唇も舌も首も、胸も、腰も、背中も、脚も……」

 一瞬だけ、言い淀んだ。けれど。
 私の浴衣の襟を再度、ぎゅっ、と握った彼女が、目と目を合わせ、視線を逸らさず、告げた。

「あそこも、全部、舐めて。雀ちゃんの事しか考えられなくなるくらい……どろどろでぐちゃぐちゃにして欲しいの」

 震える息が、頬を撫でたと思ったら、再び、愛羽さんに唇を奪われていた。

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 私の口を塞ぐ柔らかな唇によって、呼気が行先を失うなか、今すぐ彼女の浴衣を剥ぎ取りたい衝動に駆られる。
 これまでに、こんなにもあられもない言葉を吐く彼女は見たことがないし、私の全身に痺れが走り、下腹部がぎゅうと締まるような台詞を浴びたのは、これが初めてだった。

 何か言いたいけれど、この燃えるような衝動をどう言葉にして伝えたらいいのか分からない。

 自分が愛羽さんに、「隠さず教えてくれ」と告げたくせに、いざこうして与えられると、その衝撃を処理しきれずに狂おしく、身が焦げそうだ。

 そんな幼稚な自分に嫌気がさす。
 彼女がここまで、私の要求に応えてくれたのだ。

 口付けの寸前に見た彼女の瞳は潤みに潤んで、羞恥を押し殺すことに必死だった。
 その目元は真っ赤で、きっと、首や耳まで、その色に染まっていたことだろう。

 そこまで、してくれたのだ。

 私は、彼女を、”どろどろでぐちゃぐちゃ”にしなくてはいけない。

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 愛羽さんからの口付けがそっと外され、それに合わせて、彼女の手の力も緩む。
 私は閉じていた瞼を押し上げて、彼女の顔を見下ろした。

 やはりまだ、羞恥に染まる顔。瞼はうっすら開かれているものの、私の方は向かない瞳。自身の放った言葉の恥ずかしさに、こちらを向けないのだろう。

 普段ならばここで、「愛羽さん、こっち見て?」と声を掛けて向かせるところなのだが、今回ばかりは、それは流石に酷過ぎる。
 彼女が羞恥を圧し、見せてくれた誠意に対して、私はまだ何も出来ていない。

 まずは、彼女の行動に見合う行為を、してみせなければならないだろう。

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 私は、気を抜けば荒ぶりそうな息をゆっくりと低く吐いた。
 微かに声が交じった気もするが、どうでもいいや、と頭の隅で言い置いて、逸る心を落ち着ける。

 愛羽さんとの唇の距離はやはり僅か。だけど、彼女が視線を逸らしているせいか、少し俯きがちの顔の角度がなんとも、いじらしく、可愛らしい。
 自然と目元が緩み、愛しさのまま、私は彼女の頬へと口付けた。

 愛羽さんからしてみれば、きっと、あれだけ煽れば最初にくるのは口へのキスだろう。そう予測していたのに、子供がするみたいな小さなキスがひとつ。それも口でなく、頬へ。

 小さく息を呑んだ彼女が驚いた色をいっぱいに浮かべた瞳をこちらへ向けた。

 なんでほっぺ……? あれだけ恥ずかしい思いをした結果がそれなのか。
 そんな事を考えていそうな顔に微笑んで、私は、自分の意思でこちらを向いてくれた彼女の瞳を覗き込んだ。

「好きだよ」
「ぇ」
「愛羽が、好きだよ」

 重ねて囁く声は少し低め。
 いや、低いというよりは穏やか、と言った方が合うだろうか。

 そんな声で、呼び捨てにしたのは初めてかもしれない。
 だって彼女を呼び捨てるのは大概、行為の最中で、私が、理性が何かも分からなくなった頃、無意識のうちそうしてしまった結果だ。

 まだ服も脱がせていないうちに、こうして彼女の名前だけを口にするのは、私の記憶が確かならば、初めてだった。

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 そのことを、彼女も解っているのだろうか。
 随分と、驚きに目を見張って、「ぇ、ぁ、ぅぇ…?」と戸惑いらしい声を小さく漏らしている。

「愛羽」

 万感の思いを込めて、というと大袈裟かもしれないが、私はそのくらいのつもりで、大好きなひとの名を口にする。

「大好きだよ」

 覗き込まれて、視線を逸らすこともできずに固まっていた瞳が、私の言葉に呼応するかのように、大きく揺れた。

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