隣恋Ⅲ~ひねもす~ 33話


※ 隣恋Ⅲ~ひねもす~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ ひねもす 33 ~

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 自分の呼気が熱いのは、よく分かっているつもりだ。

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 隠さずに教えてくれと告げた後、わざとではなく、長い溜め息が私の口から漏れた。
 それはどこか達成感を帯びていて、我ながら、先程の台詞に緊張していたのだと後から知る。

「す、ずめ、ちゃん……」

 荒い息と共に吐き出された私の名前。
 自分の名に、これほどの色気を塗して呼ばれた事が、これまでにあっただろうか。
 愛羽さんと付き合って、もう何千回とこの名前を呼ばれてきたけれど、その中でもダントツに、色っぽい。

 呼ばれただけで後頭部から項、首、腕、上半身と鳥肌がたち、思わず身体までも震わせた私は、顔をあげた。

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 彼女の左手を掴んでいた力がいつの間にか緩んでいたらしく、スルリと外された手に驚く。
 けれどさらに驚くことは続いて、顔をあげた私は思わず、動きと思考を停止させてしまった。

 私の両頬は彼女の手によって挟まれ、さらに、彼女の唇によって、私の唇は塞がれているのである。

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 しかもそのキスの、噛みつくような狂暴さ。

 普段の彼女からは想像もつかないような、縋るキス。
 入り込んできた舌は、彼女が自分の身体は冷えていないし寒くもないと言っていたことを証明するかのように熱く、私の舌を奪うような強引さで絡めとった。

「ん、……っ」

 こちらが声を漏らしてしまう程、性急に求めてくる愛羽さんは、私の弱点である上顎を執拗に攻め、粟立つ肌を全身にまで広げた。

 これでは、上に覆いかぶさる私が、下側に居るみたいじゃないか。
 冷静なもう一人の私がそう不満げに言うけれど、それどころじゃない。いや、そんな事はとっくにわかっているのだけど、両頬を挟まれてキスで攻められては、どうにもならない。

 私だって、出来るならばすぐに、攻守交替をしたいと思っている。

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「……っ、ハッ……はぁっ……」

 やっと、離れた唇同士を、当然のように銀糸が繋ぐ。

 そしてこれまた当然のように、私の身体からは力が抜けるけれど、そこは、せめてもの意地。
 ここでまたへたりこんだら、それこそ、もう、今夜は愛羽さんに抱かれる側になってしまうのではないかと思う。

 だから、両肘で自分の上半身を支えて、彼女の脚の間に着いた膝はなんとかそのままにして、彼女を見下ろした。

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「……」
「……」

 無言で、互いの瞳を覗き込む。
 私の瞳も随分と潤んでいるだろうけれど、きっと、愛羽さんの方がもっと、潤んでいる。
 今にも涙が零れ落ちそうな潤み具合で、瞬きを一度でもすれば、目尻から一筋流れ出てしまいそうだった。

「雀ちゃんが、命令したから、だからね……」

 うわ言のような口調で、愛羽さんは言う。
 両頬を挟んでいた手が首筋を通り、浴衣の両襟をぐいと掴み寄せた。

 鼻と鼻がぶつかる距離まで寄せられて、妙に乱暴な彼女の手が震えていることに、やっと、気が付いた。

「仕方なく、だからね……」
「……はい」

 命令しましたから。と、彼女の精一杯の照れ隠しを助長して、愛羽さんの言葉を待つ。

「き、……」

 冒頭の頭文字で詰まった彼女は、一度、ごくりと喉を鳴らすと、意を決したように息を吸った。

「キスして」

 言葉が区切られたその瞬間、私は寝転んでいるのにも関わらず、盛大にコケるかと思った。

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