隣恋Ⅲ~ひねもす~ 32話


※ 隣恋Ⅲ~ひねもす~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ ひねもす 32 ~

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 こ、く……と愛羽さんの喉が小さく鳴った。

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 私が今から何をしようとしているのか、きっと彼女は理解している。
 だからこそ、生唾を飲み込んだのだろうし、私が押さえつけた左手がきゅっと拳の形に握られたのだ。

 私は、幾度も薄れた紅華に口付けを繰り返しながら、愛しいひとの名前を呼んだ。

「抵抗しないってことは、いいんだろうなって勝手な解釈しますけど」

 いいんですね? と念を押した。
 だって、いつも暗黙の了解になっている禁止事項を、今、破ろうとしているのだから。
 普段の10分の1にも満たない残された理性で、彼女に問い掛ける自分を褒めてやりたい。本当なら今すぐ、彼女の了解を得る工程もすっ飛ばして、この紅華を濃く、鮮やかなものに更新したいのだ。

 それを我慢している理性を、褒めてやりたい。

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 そんな私の決死の問い掛けに、愛羽さんは微かに息を乱しつつ、反抗的な返答を寄越した。

「手、押さえてるから、したくても、で、きないでしょ……っ」

 震える声が、何度も身体を重ねた記憶を呼び起こして、さらに私の理性を溶かしてゆく。

 ――分かってない。自分がどういう立場に居るのか。ほんと……分かってない。

 そんな中途半端な、抵抗にもなっていない反抗で、事が好転するとでも思っているのか。甘い。甘すぎる。
 彼女とのキスのように甘い考えの持ち主の、首の痕に舌先をぐいと押し付け、肌を軽く押し込む。
 この痣を付けられた時の記憶を思い起こせとばかりに強く、熱の篭った舌先で抉った。

「く、…ふ……っ」

 部屋を暗くする代わりに、声を堪えないその約束すらもう忘れて、彼女は声にならないような声を、あげる。

「両方とも、そうしてる訳じゃないのは、分かってるでしょう?」

 私が、押さえているのは、片腕のみ。
 本当に、見える場所にキスマークを付けられたくないのなら、抵抗できるはず。なのに、それをしてない彼女は……。

「付けられたいのに、素直になれないんですか?」

 息を呑んだ彼女の喉は、びくんと一度大きく震えた。

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 しようと思えば出来る抵抗もせず。

 抵抗しない理由をひとの所為にして。

 息を乱し、声を震わせながら私の行動を待ち、敏感になっているその真意。

 素直になれない。
 それは当たらずとも遠からず、といったところなのかもしれない。

 私はもう一度、愛しいひとの名前を呼んだ。

 首筋の薄れた紅華に口付け、そのまま唇で肌を上へと撫で上げる。
 行き着いた先は、耳の付け根。
 ココはよく香水をつける場所だと言われるが、今そのことを思い浮かべても、彼女の肌からはボディソープの人工的な香りしかしない。

 明日の朝にでも、もう一度ここに顔を埋めてみようか。
 そんな場違いな考えを抱きながら、私はそっと囁いた。

「好きにしていいって、言いましたよね?」
「……、っ……」

 軽く覗かせた舌先で肌を舐められて、熱い吐息を零す彼女。

「愛羽さんが嫌な事はしませんから、嫌なら抵抗してください。だけど、それ以外は、私の言う事を聞いてください」

 鼻先を耳たぶに摺り寄せながら、彼女の視界には入らないそこで、私は口元に笑みを浮かべた。
 これから、彼女は、どんな甘い台詞をその唇から零してくれるのかと期待して。

「私が命令するから仕方なく、って常に思ってていいから」

 だから。と続けた。

「して欲しいこと、全部、隠さずに教えてください」

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