隣恋Ⅲ~ひねもす~ 30話


※ 隣恋Ⅲ~ひねもす~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ ひねもす 30 ~

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 私の体温がなるべく早く伝わるように、体を密着させる。

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 だけど、ただただ体を押し付けていたのでは体重も彼女にかけてしまうことになる。だから私は、愛羽さんの両脇に肘をついて体重を横に流す。
 こうしたら、体温は伝わるけど、体重はかけずに済むから。

「過保護」
「それは愛羽さんだってでしょう」

 体を温めようとしている事だけを指したのではない言い方に、体重をかけないよう気を遣ったのがバレたのだと知るが、今更どうしようもない。
 自分の事を大事にし過ぎだと詰る愛羽さんだって、ひとのことは言えない。
 なにせ、夏場でもシャワーの後は髪を乾かせ風邪をひくと口煩く言うのだから。

「わたしはいーの」
「どうしてです?」

 布団の中で背中を両手で抱き締められた。
 回された手に自然と目元が緩めば、彼女もなんだか嬉しそうに表情を和らげる。

「年上だから」
「ずるいなぁその言い方」

 笑みを含んだ言い合いをほろほろと交わしながら、だんだんと、唇の距離が近付いてくる。

「ずるくて結構。わたしは大好きな雀ちゃんの世話を焼きたいの」

 ――なん、だ、その殺し文句。ずるいなんて言葉じゃ間に合わない……。

 すり、と鼻先に擦り寄ってくる彼女は、潤ませた瞳をゆっくりと閉じた。

「……」

 私も、大好きな愛羽さんの世話したいんですけど、と言い返す言葉は、彼女の唇によって、封じられた。

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 愛羽さんから押し付けられた唇は相変わらずひんやりとしている。
 先程の殺し文句にやられた私の体温はすこし上昇しているため、気持ちいいくらいの冷たさだけど、それだけ彼女の体温が下がっているということだ。

 啄んだ唇を離し、キスの角度を変えようとした私の後頭部に片手を回した愛羽さんが、うっすらと瞳を覗かせながら、私の名前を呼ぶ。

「貴女の体温の方が、高くなってるんじゃない?」
「……へ……?」
「だってわたし、本当に寒くないんだもの」

 まさかの新情報に、私はキス寸前の体勢のまま目を丸くした。

「待ちきれずに興奮しすぎ」

 悪戯っぽく笑んだ彼女は、避ける間もなく、私の下唇に歯をたてた。

「う」

 柔らかな唇が多少ズレた所に触れる感覚を味わいながら、硬質物が下唇を若干強めに挟む。
 今夜の愛羽さんは、耳といい下唇といい、噛み癖を発症させているみたいだ。
 私が顔ごと引いてしまえば歯の間からは抜け出せるかもしれないが、むりに引っ張ると痛そうだ。
 放してくれないかなぁ……と眉尻をさげて、至近距離で困った顔でアピールしてみせるも、愛羽さんはクスクスと笑うばかり。
 それどころか。

「ん……」

 目を伏せ、色っぽく声を漏らしつつ、噛んだ唇の先っぽをぬるりと舐めたのだ。

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 愛羽さんが噛んでいる唇は、ほんの一部だ。多分、親指の爪程の幅。
 そんな僅か一部の唇を、右から左へ、下から上へ、またその逆を、と。舐め尽くすとはこのことかと言うほどに、舌を使って私を愛撫してくるのだ。

 一方、動くこともままならない私は、キスに応じる訳でもなく、また拒む訳でもなく、ただただ、彼女の愛撫を受け続けるしかない。

 閉じられない口からは震える息が零れてゆく。
 彼女の愛撫を受ければ受けるほど、その呼気は熱を増し、震えを伴わせてゆく。

「……ん、ぅ……」

 きっと、わざと、だ。
 あんなふうに聞かせるのが目的だと言わんばかりに漏らす、いやらしさの塊のような甘い声。
 私を煽るためだけに、エロさ満点の声を、出している。

 何故そう断定できるのか。
 それは、私の様子を窺う二つの目が、こちらを面白そうに眺めているから。

 れろ、と唇を舐めながら、目で弧を描く彼女に翻弄される。
 遊ばれているのだと分かっていても、抗えない魅力。

 痺れる後頭部を引っ掻くように時たま動かされる指。

 彼女の両脚を跨いで膝を着いている私の足に、するりと寄せられるなめらかなつま先。

 全身でそうして、翻弄してくる愛羽さんの色気に、私はついに、喉を締め、堪えていた声を、不覚にも零してしまった。

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