隣恋Ⅲ~ひねもす~ 28話


※ 隣恋Ⅲ~ひねもす~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ ひねもす 28 ~

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 薄暗い。その表現がしっくりくる。

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 窓の無い部屋がこんなにも暗いものだと、初めて知った。
 私が生活してきた中で、窓がない部屋で、真っ暗になる。そんな状況の経験は今までにない。
 だからさっき、愛羽さんが照明を極限まで落としたときには、少し恐怖すら感じたくらいだった。

 だけど今は、彼女の計らいによって、手を伸ばせば届く距離に居るひとの表情は読み取れる明るさに部屋は支配され、その中で私は愛羽さんを抱き締めた。

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 パネルの前。枕の上に座った彼女を膝立ちで抱き締めた私は、さてこれからどうしようかと悩んだ。

 彼女の可愛さに昂ったまま抱き締めたのだが、私がもう少し後ろへさがって、彼女を引き寄せるのが、正解の行動だったのではないだろうか。
 ここでは、二人とも枕付近に固まって、妙に身動きがとれない。

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「ね、雀ちゃん」
「はい?」
「わたしにして欲しいことって、ある?」
「へ?」

 素っ頓狂な声をあげつつも、腕を緩め、突然の質問をした愛羽さんの顔を覗き込んだ。
 その顔を見る限りでは、「じゃあベッドに寝転がってください」とかそういう単純な話をしているのではないと覚る。

「な、何かしてくれるんですか?」

 質問に質問で返すのはどうかと思うが、彼女が言わんとしていることが、ちょっとまだ掴めてない。
 あまりに的外れな事を言って雰囲気を壊してもいけないしなぁと、仕方なしに尋ねてみれば、彼女はなんだか照れくさそうに私の首に腕を回してきた。

「過激な事言ったりするくせに、雀ちゃんが優しいからなんだか嬉しくなっちゃって。なにかして欲しいこととか、ないのかなーって」

 ふにゃっとした笑みを浮かべて私とおでこをくっつけてくる愛羽さん。
 どうやら先程、照明の明るさ争いで最後に譲った事が、かなり嬉しかったらしい。

 全身から”好きオーラ”を放ちつつ、甘える仕草をする彼女は、指に私の後頭部の髪を絡めつつ、自ら軽くキスをしてきた。

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 ちゅ、ちゅ、と遊びのようなキスを何度も口にされて、その合間にはいかにも「このイチャイチャしてる時間が楽しいの」と言わんばかりにクスクスと笑みを零されては、こちらの顔にも笑みが浮かんでしまうというもの。

 今からどうやって体勢を変えて愛羽さんを組み敷こうかなんて悩みも放り出して、私はお返しのキスを何度も贈りながら、先程の質問について考えた。

 して欲しいこと、かぁ……。なにかあるかなぁ。

 うーん……。

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「あ」
「……ぅん? ぁ、思いついた?」

 じゃれるようなキスの最中、閃いた私は声をあげた。

「なにして欲しい?」
「愛羽さんに、たくさん、名前呼んで好きって言ってほしいです」
「え」

 彼女に「雀ちゃん、好きよ」と言われる瞬間、毎回飽きないな自分、と思いつつも胸が高鳴るし、じわりと悦びの感情が広がる。
 その感覚が好きなので、お願いしたのだけど…………予想に反して愛羽さんが目を丸くして固まるもんだから、焦った。

「ぁ、いや、駄目ならべつに」

 しまった。的外れな答えを出してしまったか。

 わたわたと慌てる私に、愛羽さんはゆるく首を振って、何故か額にキスをくれた。

「違うの。駄目じゃなくて。そんなことでいいのかと思って」
「そんなことって! 大事な事ですよ」
「うん。大事は大事なんだけど。今の流れだと、電気もっと明るくしてとか言うのかなって思ってたから。意外っていうか、雀ちゃんらしいっていうか」

 可愛いなぁと思ったの。と、また額にキスされた。

 ――なるほど、その手があったのか。

 今更もう遅いのだが、そういう事だったのかと納得して、若干の後悔を抱く。
 私はもう少し、会話の流れの勉強をしようと密かに誓った。

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