隣恋Ⅲ~ひねもす~ 22話


※ 隣恋Ⅲ~ひねもす~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ ひねもす 22 ~

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 風呂でシャワーを浴びながら、髪のコンデジショナーを流すために、シャワーヘッドに背を向けた。

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 お湯を浴びながらだったので、視界不良。
 だけど私は……そこに人影を見たような気がした。

 上から下までガラス張りのその向こうは、さっき愛羽さんと食事をとった和室。
 障子は両方ともちゃんと閉まっている。

 だが。

 その向こうに立っている人影がしっかりと見える。

 あれがお化けなら恐怖しか感じないが、浴衣っぽいシルエットだし、背の高さは愛羽さんくらいだし、どう見ても、あの人影は愛羽さんだ。

 人には覗くな、と言っておいて、どうやら、覗き見していたらしい。
 さっき、細く障子が開いていた気がしたのは、多分気のせいではない。私が振り返る動作を察知して、彼女は、急いで障子を閉めたのだ。

 そして、私から障子に透ける人影が見えるとも知らず、覗き見の背徳感と悦びに浸っているのだろう。

「……これはおしおきだな」

 呟いた私の声は、シャワーの音に紛れて、消えていった。

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 風呂からあがって浴衣を纏い、髪を乾かして歯を磨く。
 そうして戻った部屋には、先程私が寝転がっていた場所で悠々と寝転がって、映画を見ている愛羽さんがいる。

 あの後覗きはもうやめたのか知らないけれど、一つ面白い事を思い付いたので、悪いコを揶揄ってみることにした。

「ただいま戻りました」
「おかえりー。お風呂広かったよねぇ?」

 にこにこしている愛羽さんはその手にお茶のペットボトルを握っている。
 私が視線をそれに落とすと、起き上がった彼女は、飲む? と差し出してくれた。

「買っちゃった」

 指差したのはテレビの下。
 なんでもあそこにはジュースやお酒の自動販売機みたいなものがあるらしい。

「へぇぇ」

 受け取ったお茶をぐびりと飲んで、私は愛羽さんの斜め向かいに座った。

「それより愛羽さん、ラブホって……出るんですか……?」
「出る? って? 何が?」

 わざと、押し黙る。
 ペットボトルの蓋をゆっくり閉めてから、不穏な表情に変わった彼女にそれを返して、低めのテンションで告げる。

「おばけ」

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「え゛!?」
「私さっき、おばけ見た気がするんです」
「ええ!? お風呂で!?」

 重々しく、頷く。

 ――焦ってる。めっちゃ愛羽さん焦ってる。

 覗きをしていた愛羽さんのことを”おばけ”だと言ってるとは気付かず、怖がっている彼女が内心面白くて仕方ないのだが、そのまま低いテンションで、続けた。

「髪が長かったんで……女の人だと思うんですけど……」
「え、ちょ、ちょっとコワイ事いわないでよ」
「……なんか和服っぽかったんで……」

 怖いのか、愛羽さんはきょろきょろと周囲を見回した。
 だだっ広い部屋に恐怖を感じたのか、彼女は腰を浮かせて私の隣にピタリと寄り添うように座りなおした。

 私の二の腕に腕を絡めて、抱える仕草がまた、たまらなく可愛い。
 その可愛いさに免じて、そろそろ、ネタばらししてあげることにした。

「服の色は緑と白の縞。帯は濃紺で、身長は151センチ。長い髪の色は」
「ちょっと」

 そのリアルで細かい情報に、賢い彼女は瞬間的に察したようで、怒った声で私を遮った。

「はい、なんです? そういう感じのひとが、障子を開けて覗き見していたもので。人には覗くなとか言っておいて、自分はするだなんて、良識のある私の恋人はそんなこともちろんしないと思うので、あればおばけですよね?」

 しれっと視線を逸らす彼女だが、そのバツの悪そうな顔は誤魔化せてない。
 丁度良く、彼女の方から私に近付いてきてくれたし、利用しない手はないだろう。

「どう思います? 愛羽さん」

 彼女の頬に手を添えて、クイとこちらに向かせた私は、きっとさぞ、意地悪な顔をしていると思う。

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