※ 隣恋Ⅲ~ひねもす~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ ひねもす 17 ~
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左右に割った箸を一度くっつけ、横向きに構えてから上下に離して見せた。
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すると、それまで片眉をあげて私の様子を窺っていた愛羽さんは、にーっこりと笑顔を浮かべた。
そしていつものように、軽く腰をあげて、私へ手を伸ばす。
「はい。よくできました」
よしよしと犬にするように撫でられた。ついつい、私も、彼女が腰を上げると撫でられることを察知して頭を前に差し出してしまう癖がつきつつある。
食事中に関わらず、教えたマナーをきちんと思い出して実行すれば、彼女は頭を撫でてくれる。
以前、食事中に頭を撫でるのはマナー違反じゃないんですか、とぼやいたら、食事マナーの指導中なんだから出来たその時に褒めてあげないと、やる気も出ないし覚えてられないでしょ? と笑顔で躱されてしまったことがある。
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「だんだん覚えてきたね」
「……嬉しそうに言わないでください」
それこそ、お手を覚えた犬を見る目をして言わないでほしい。
彼女はトレーの左手前の縁を箸置き代わりにして置いていた箸を綺麗な所作で持ち上げながら笑う。
「だって、教え子が育つのは嬉しいものよ?」
「じゃあ卒業は間近ですか?」
「全っ然まだまだ」
笑顔で、言わんでください……。
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まぁ、マナーを叩き込むと宣言されていても、彼女との食事は楽しいし、こんなふうに注意や指導を飴と鞭を上手く使ってしてくれるひとはなかなか居ないと思う。
最近恋人にマナー習ってるんだよね、とは誰にも言えないけれど、それはマナーが出来ていない自分が恥ずかしいからで、愛羽さんが嫌だからではない。
むしろ本当に、感謝しているし、しなければならないと思う。
「雀ちゃんってさ、唐揚げ好きよね」
「わかります?」
最初にコーンスープへ手を伸ばした愛羽さんとは対照的に、唐揚げに箸を伸ばした私に、彼女はちょっと笑った。
「わかるよ。どこ行っても、食べるのに悩んだらとりあえず唐揚げがあるもの頼んでるから」
「だって美味しいじゃないですか」
「確かに美味しいけど、飽きたりしないの?」
飽きる。飽きるかぁ……。
うーん。
「飽きないですねぇ」
好きなものを飽きるなんてこと、そもそもあるのだろうか。
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食事を摂り終えると、結構な満腹具合。これでは食後のコーヒーも控えた方がいいだろう。
愛羽さんはと言えば、座椅子の背に凭れて、「食べすぎた……」と苦しそうにしている。
「お腹いっぱいで眠たくなったとか言わないでくださいよ?」
「い、いわないわよ」
揶揄う私に赤くなって愛羽さんが言い返す。お腹がいっぱいでも、ちゃんとこの後何が控えているのかは忘れていないらしい。
ちょっと笑った私は、トレーとお皿をひとつにまとめる。
「あ、ごめんありがと」
まだ苦しそうな彼女に、いいですよ、と言い置いて、まとめたトレーを玄関へ持っていく。きっと一泊くらいなら部屋のどこかへ置いておけばいいんだろうけれど、二泊もするし、部屋の中へ使用済み食器を抱え込まない方が得策だろう。
玄関のテーブルに置いておけば、次に食事を持って来てくれたときに、下げてくれると思う。
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部屋に戻ると、和室にちらと愛羽さんの姿が見える。
ここから眺めると、座卓の下に、崩した足がちらりと見えて、なんだかエロい。
――あの脚に触れたい……。
内から湧き上がる衝動をなんとか堪えて、深呼吸を二度してから、私は彼女の居る和室へと足を進めた。
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